(3)
妻がフトゴース人たちとの関係を深める一方で、タケルの取材は、なかなか捗らなかった。
概して温和で牧歌的なフトゴース人たちの人となりは、タケルにとって近しく好ましいものであったが、それは、タケルが知りたいことではなかった。
また、フトゴース人たちが作るスライム状の道具は、言語学と社会学を学んだ記者であり、エンジニアや研究者ではないタケルにとって、彼の理解をはるかに超えるテクノロジーで作られたものだった。だから、タケルには、フトゴース人たちの道具について取材しようがなかった。
何か「事件」が起こらなければ、彼の取材は、進みそうになかった。
タケルの取材が行き詰っている間も、彼の息子のトムは、フトゴース人たちの学校に通い、彼らについて学んでいた。
トムの褐色の肌や、カールした黒髪は、その物珍しさから、フトゴース人の子供たちの憧れの的だった。
何よりトムは、父親に似て礼儀正しく、母親に似て物怖じせず人懐っこかった。
だから、トムのぬめぬめした友達は、日に日に増えていった。
シュシュパシュの娘であるパシュシュシェは、そうして増えた友人のなかでもトムと特に親しい一人だった。美しく透き通った橙色(だいだいいろ)の身体を持ち、聡明なだけでなく、優しく公正でもあるパシュシュシェは、男子からも女子からも人気があった。
トムは、パシュシュシェに招かれてシュシュパシュの家に遊びに行くようになった。パシュシュシェは地元の有力者だったから、トムがその家に出入りするようになって、タケル一家のフトグーイでの活動は、ますますやりやすくなった。
シュシュパシュがタケルに言った天体ショーの日に、タケルが待ち望んでいた、そして起きてほしくなかった「事件」が、ようやく起きた。
息子のトムが、夕方になっても家に戻らなかったのだ。
空では、「姉の月」が「弟の月」と重なり、フトグーイの空で明るく輝く「姉の月」が欠け始めていた。
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