5 悪漢

新宿ビルの件から二日後、女はやっと身支度を終えた。


「これ、今回の件の人間っす。」

「ありがと、いつも助かるわね。ちょっと出かけてくるわ。」


女は、悪魔専門情報屋からのメモ書きを受け取って失い物屋を後にした。

今回の新宿ビルの火災の原因。

もちろんあの怪物が引き起こした訳なのだが悪魔は人間に干渉できても、物体をいじれる訳ではない。指示に従った人間がいる事になる。

あの中で一人だけ生き残ったビルの管理人、まみれ よくだ。

管理人であれば、ビル内の設備を簡単に操作できる。

塗れは、事故後に職場を退職し潜伏したようだ。悪魔に逃げる様にそそのかされたのだろう。愚かなことだ。悪魔と関わった人間の魂は死は訪れたりしないというのに。

どれだけ逃げようと、罪が女を塗の元に導く。

その背中を、見つけ衝突する。


「おい!お前!急にぶつかって来て謝りもしないのか!!!聞いているのか!!」

「謝罪?あると思うか、お前のような人間に。お前が得たい物よりもっと、お前が失った物は大きい。そのための代償も何もかも許されるものではない。」


突如として、体中が何かに圧迫される感覚がした。

何かが存在る。姿を見る事も、触れることすら叶わない。

死への覚悟のように揺るぎない絶対的な何かが、塗 欲の中に芽生える。逃れられない。

ただ何かが起こるのを震えて待つだけ。

塗の酷く肥えた腹を何かが通り抜ける。ガシャ、ガシャと何かが肩を掴んでいて、女が体の中をモゾモゾと探っている。何を探しているのだろうか。

「あったあった。ここね。」

女の微笑と同時に身体の内の何かを握られ、ブチ、ブチと音を立てながら引きちぎられる。

痛みは無く、引きちぎられたという認識だけが男の中である。なんとか目線だけを真下に向けると塗の腹からは臓物がはみ出ていた。

臓物を全て引きずり出すと、女はナイフあばら骨を取り出し、綺麗にそぎ落としていく。

その間、塗が死ぬことが無く、耐えられないほどの痛みが襲う。


「ひぃ、ふぅ、みぃ。これだけあれば足りるかしら。恐い?人間は恐怖には正直ね。お前の様な道を外れた者が冥界へ行けると思うな。ここで一生、私の髑髏として扱われ、魂が輪廻の輪に戻る事はないのだから。」


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失い物屋 @iamno

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