第111話 王 vs 王

 純白の王エヌピシの前に従者の二人が並ぶ。身を低くし、首を垂れた。


「ここまでお供できて光栄でした。我が王エヌピシよ」

「王の勝利を信じております」

「ガンザ、デーラン……」


 エヌピシが二人の名を呼ぶ。


「やはり、決心は変わらないか」

「我々はこれまでに多くの銀河を渡り、多くの強者を喰らい、強くなってきました。そのすべては今日、この日のためです」

「今度は自分の番が来ただけです。我が親愛なる王のためならば、これほどの栄誉はありません」

「私も共に旅ができて嬉しかったぞ」


 エヌピシがデーランに近づく。そして……。


 バリッッ!!!!


 いきなり頭部に噛みついた。デーランが目の前で喰われる横で、ガンザはじっと自分の番を待っていた。


 そんな共喰いの現場をしばらく俺は黙って見ていた。


 暫くして、ガンザとデーランは跡形もなく消えた。地面に残る血の跡だけが何があったかを物語る。


「ガンザ、デーラン。我が内にお前たちを感じる」


 口を拭い、エヌピシは静かに言った。


「友よ。お前たちは我が血肉となって生き続けるぞ」


 エヌピシの全身が眩く輝きを放ちはじめた。


 奴の【ステータス】が急上昇していく。


◇◇◇


名 前 エヌピシ

称 号 プレアデス星団の王・シグマ銀河の王・原初の神アヌ・惑星ヌィズの神・

    惑星メギドラの王

年 齢 8,000,000

L v  10,000


◆能力値

H P    97,500,000/97,500,000

M P        0/0

スタミナ   65,000,000/65,000,000

攻撃力    28,500,000

防御力    48,500,000

素早さ    118,000,000

魔法攻撃力  0

魔法防御力  95,000,000

肉体異常耐性 100,000,000

精神異常耐性 90,000,000


◆根源値

生命力 6,500,000

持久力 8,500,000

筋 力 4,000,000

機動力 9,000,000

耐久力 4,350,000

精神力 9,500,000

魔 力     0



◆固有スキル

【捕食進化Lv.500】【共鳴強化Lv.500】【エナジーバーストLv.500】


◆スキル

【捕食回復Lv.500】【破壊超音波Lv.500】【溶解液Lv.500】【ジェットLv.500】【毒針Lv.500】【硬化Lv.500】【スレッドLv.500】【超磁力Lv.300】【雷撃Lv.300】【レーザービームLv.300】


◇◇◇


 3メートルほどあった身長が縮んでいき、2メートルほどになった。身体つきも無駄な肉付きが削ぎ落され、より細くシャープに変形する。

 純白の甲殻はダイヤモンドを砕いたような虹色に煌めくものに変化していた。見た目は絞られたが、その分強大なエネルギーがその甲殻の内側に圧縮されているようだった。


 宝石のように赤い複眼がギラリと光る。


 コォォォォォ──


 背中から青白い粒子が放出されて羽を形作った。


「従者を喰らい、【進化】したか」


 俺は【隠形おんぎょう】を解いて姿を見せる。


「待っていてくれたのだな。感謝する」


 虹色に輝く王エヌピシがゆっくり俺と向き合う。自分の拳を握り込んだ。


「友を喰らう。お前たちからしたら異様で野蛮なことだろう……」

「……」

「ガンザとデーランは幼き頃からの友だった。お前たち人間の一生からしたら途方もなく長い時間を共に過ごし──」

「おい、待て」


 蠅を払うように、相手の言葉を遮る。


「お前たちの文化や風習をとやかく言うつもりは無い。だが、お前の感傷に付き合うつもりもない」


 エヌピシを見据える。


「ガマシロモの行為を見ていたか? 俺は、怒っている」


 静かにそう返した。


「さっさと決着ケリをつけるぞ。お望みの敗北を与えてやる」

「──フ」


 息を漏らすと、天を仰いでエヌピシは壊れたように笑いはじめた。


「そうだな、すまない! 私も我が民の多くを失ってしまった。自分たちから仕掛けた戦いだ。逆恨みでしかないが、私もお前が憎い!」

「来い」

「最初から全力で行くぞ! 【エナジーバースト】──!!」


 ノーモーションで突っ込み殴りつけてくる。俺は腕で受け止めた。


 ド、ゴォォォ────!!!!


 衝撃波が俺の身体を突き抜けて背後に広がっていく。地面が捲れ上がり瓦礫が飛び散った。


「ゥオオオォォオォ、ヴァレタス────!!!!」


 怒涛の連続攻撃だ。一撃一撃が重く【エナジーバースト】というスキル効果によって攻撃力もどんどんと上昇していく。


 ボッッッッ!!!!


 下から抉るように殴られ、俺の足が地面を離れる。錐揉みになりながら一気に数キロ真上に吹き飛ばされた。


 ドヒュン──!!!!


 エヌピシが光の羽を広げる。足から噴射された【ジェット】で、一気に飛び上がり、俺の真下まで辿り着いた。


 無防備な俺の腹部に両手を当てた。


「【破壊超音波】──ッッ!!!!」


 ギュオオンッッ!!!!


 ヘルニオクとゾルニオキの超音波攻撃より遥かに強い衝撃波が全身を襲う。俺は更に打ち上げられた。


 ビンッ!!


 だが強制的に引き戻される。俺の身体に糸が付着していた。


 【スレッド】のスキルか。


 ギュオオ!! オオ!! オオ!! オオォ……!!!!


 超音波攻撃で俺の身体が空を舞う。まるで壊れたマリオネットが弄ばれているようだった。


 ブチッ!!!!


 やがて衝撃に耐えきれずに糸が切れた。


 ふわりと浮遊感を感じて俺の身体が下へと落ちていく。落下していく俺をエヌピシも逃さずに追ってきた。


 キィィィ……ン!!


 エヌピシの両腕が緑色に発光する。


「これはガンザから受け継いだ能力チカラだ!!」


 掌にある噴射口から光線が放たれる。


「【レーザービーム】──!!!!」


 俺は地面に叩きつけられた。浮遊大陸に亀裂が走る。


「オォオォオオォォ!!!!」


 ダダダダダ!! ダダダダダ!! ダダダダダダダ!!!!


 レーザービームの連射はなおも止まらない。


 ギュイイィィィィ────ンッ!!!!


 エヌピシがジェット噴射で上空から俺に体当たりしてきた。


 大陸が割れて、浮遊大陸は完全に崩壊する。


「そしてこれが、デーランの遺した能力っっ!!」


 エヌピシが両腕を掲げる。


 ジジジジ……ッッ!!!!


 宙を漂う瓦礫の山が突然動きを止めた。


「【超磁力】!!!!」


 周囲の瓦礫が意思を持っているかの如く俺にぶつかって来る。


 ドン!! ドン!! ドン!!


 いくつもの瓦礫に俺は圧し潰されていった。


「数多の惑星の王を喰らい、生命体の頂点に上り詰めた我らの力、思い知るがいい!!」


 瓦礫の集合体がどんどんと圧縮されていく。


「調子に──」


「乗るな!」


 パ────……ン!!


 巨大な瓦礫の集合体が霧散した。


「!?」

「さっきからペシペシペシペシと。地味に痛かったぞ」

「き、貴様っ!!」


 ポウ。


 俺は頭上に青白い氷の粒を出現させた。


「今度は俺の番だ。【アイスボール】」


 シュッ!


 エヌピシに向かって粒子を飛ばした。


「は、速い!! 避けきれ──」


 言葉の途中でエヌピシは真っ白に凍り付いた。これだけの強者を一瞬で氷漬けにするのだ。当然、ただの【アイスボール】ではない。以前、禍つ神たちを瞬殺した圧縮した【アイスボール】を更にレベルアップさせた。


 地上では被害が甚大になるため使えない災害級の【アイスボール】だが、ここでなら遠慮なく使える。


「この戦いで【絶対零度】を体感できたからな。それは【絶対零度のアイスボール】だ」


 周囲の瓦礫も凍り付いている。


「終わりだ」


 エヌピシを割と本気で殴りつける。


 甲殻のあちこちがひび割れて黒い血飛沫が蜜柑の果汁のように全身から噴射する。エヌピシはものすごいスピードで落下していった。


「このままでは、地球に落ちるな」


 俺は【魔力粘糸】でエヌピシを強制的に止めた。


 どこか、良い場所は……。あ、あった。


 クイッと手首を捻るとエヌピシの身体が猛スピードで急上昇していった。放物線を描きながら俺を追い越し俺の真上まで来る。

 俺は軽く腕を振って最後に残る宇宙要塞に、エヌピシを叩きつけた。


 ドガガ!! ゴゴ!! ガガガガゴガ!!!!


 建物群を薙ぎ倒しながら数十キロ以上吹き飛び、エヌピシはやっと止まった。俺も後を追う。


 エヌピシは瓦礫の中で全身から血を流してぐったりしていた。


「生きてるか?」

「ガ、ハ……!」

「あ、生きてた」


 僅かに首を起こす。


「完敗だ。私の、負けだ……。ガハッ!!」

「王……」

「エヌピシ様……」


 生き残りが周囲に集まってくる。


「エヌピシ、すまないが俺はこれからメギドラ族を一匹残らず始末する」


 こいつらの存在は危険だ。


「王を失い、統制の取れなくなった連中がどう動くか。お前なら分かるだろう」

「っ!!」


 生き残りたちはたじろいだ。


 俺は腕を上げる。【太陽創造ソール・クレアチオ】で、すべてを終わらせる。


 だが、エヌピシは血を流しながら笑った。


「フフ、心配しなくていい。誓って、そうはならない。なるはずがないさ」


 ゆっくりと腕を上げ、俺を指差す。


「ヴァレタスよ。お前の勝ちだ。我々、メギドラ族の完全なる敗北だ」


 そしてそのまま掌を広げてみせた。


「地球の王ヴァレタスよ。私の王としての、最後の願いを聞いてくれないか?」

「なんだ」

「お前を、喰わせて欲しい。私に敗北を与えた、唯一の王の身を、この内に取り込みたいのだ」


 まだ何かする気か?


「安心しろ。血の一滴、髪の毛の一本でいいんだ」


 仕方なく髪の毛を一本、エヌピシの手に乗せる。エヌピシは震えながらそれを口に運んだ。


「何と言うエネルギーだ……!」


 奴の全身から煙が立ち昇る。


「ア! ア! ア! ア! 熱いっっ!!」


 苦し気な声が煙の奥から響いてきた。悶絶し、のた打ち回っている。


「エヌピシ様!!」

「王よ、しっかりしてください!!」


 周囲が心配する中、エヌピシは蹲ったままビクビクと震えていた。


「はぁ! はぁ! あぁ……」


 やがて、ゆっくりと立ち上がる。


 煙が晴れ、エヌピシが出てきた。


「永かった。やっとこれで、戦いが終わる」

「!?」


 その声は、先ほどまでの機械のような声とはまるで違った。


 人間とそっくりな声だ。しかも──


 メリメリッ……!


 エヌピシの全身を包む甲殻が、糸を引きながら剥がれ落ちていく。


 その様を俺は度肝を抜かれて見ていた。


 甲殻の奥から見えたのは、透き通るような純白の肌だった。


 メリメリ! ボト──ッ!!


 最後に、顔を覆っていた甲殻が落ちると、長い銀色の髪が風になびいて広がった。


「な!?」

「我が王よ。妾は生まれ変わった」


 そこには一糸まとわぬ姿の女性が立っていた。美の女神と呼んでもなんら遜色ない美貌を持つ、ルビー色の瞳の女性である。


 俺の眼の前まで来ると、彼女は俺の前に跪く。同時に、生き残りたちも跪いた。


 エヌピシ女性にではなく、俺に向かって。


「お主こそ、この星の王だ」


 顔を上げ、美しい赤い瞳を潤ませる。


「そして我々にとっての神だ。妾たちは今日、この瞬間からヴァレタスという神に遣えし僕だ」

「……お前、雌だったのか!?」


 俺は驚きすぎて、なんとも馬鹿な一言を発していた。


「だったのではない。なったのだ。妾よりも強き者──愛しき神との子を、授かるためにな。本当に、永かった……!」

「っ!?」


 俺は面喰った。


 この日、メギドラ族の女王エヌピシの遥かなる婿探しの旅は終わりを迎えた。複数の銀河を股にかけた最強にして最凶の宇宙一の王はその座を退き、自分よりも強き者を前に、宇宙一の最高の雌になったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界帰りの学園無双~異世界にて邪神を屠りし英雄は現実世界で無能を演じる さんぱち はじめ @381_80os

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ