第2話

慶さんは俺と少し話した後、周囲の見回りをするといってそのまま森の中に入っていった。なんでも危険な動植物などの有無、あと可能性は低いが俺たちをここに運んできた奴らの痕跡を調べるのだそう。

可能性の低い根拠としては、俺たち2人がここに連れてこられる前の最後の記憶が関係している。

俺は自分の家のベットでゴロゴロしていたのが最後の記憶、慶さんは事務の掃除をしていたのが最後の記憶。

この記憶自体に変わったところはないのだが、問題なのはその場所だ。

聞いてビックリ、俺の家と慶さんのジムがあるのは鹿児島と北海道。つまりほぼ日本の反対に位置しているのだ。

さすがにそこまで離れている場所に住んでいる俺たちを拉致って、同じ場所まで運んでくるなんてくそ面倒なことはしないはず。だってメリットないもん。人質要因だとしても、俺の周りに金持ちなんていなかったし、慶さんも同じくらしいし。


慶さん曰く、「正直、俺らをこんなとこまで運んできたやつの目的が分からん、いっそのことファンタジー小説にありがちな不思議パワー的力で連れてこられたというほうが納得できる。」とのこと。


そんなこんなで慶さんはすぐに戻ると言い残してさっさと出発してしまった。未だ眠ってる人たち(プラス一般男子高校生)を残していくという不安要素は、あまり遠くには行かず何かあった場合に駆け付けられる距離を保つとのことで解消されたらしい。


さて、慶さんは行ってしまって話し相手もいなくなった俺は絶賛暇を持て余し中である。俺が任された仕事も、寝てる人たちの監視と実質ボーっと見てるだけの簡単なお仕事。


特にやることもないのでとりあえず俺の横で眠っている、おそらく俺や慶さんと同じような状況に陥っているであろう4人(正確には男性1人に女性3人)を、寝ているのをいいことに観察してみる。何かしら情報を得ていたほうが、起きた時に話しかけやすいかもしれないという安直な考えである。


まず男性のほう。


オールバックの金髪に洒落たメガネ。

彫の深いイケメン顔。

おそらく180cmは超えてるであろうか恵まれた体格。

それを包むめちゃくちゃ高そうなスーツ。

そしてそれら全てが霞んで見えるほどの、頬に刻まれている巨大な切り傷。



ぱっと見の印象







…………………



………ヤバい、めっちゃ怖い。眠ってるのを見てるだけなのになぜか心折れそう、てか泣きそう。絶対人何人か殺ってるよこの人。第一印象で決めつけるのはよくないけどこの人は間違いないと思う。この顔でカタギは無理でしょ。

よく慶さんこんな人運べたな。……いや、あの人も見た目のインパクトは負けてないか…。


慶さんの見た目は置いといて、正直な話かなり困った。

知らない森の中に放り込まれた身としては、たとえ知らない人でも一緒に行動してくれたほうが一人で森をさまようよりは何倍もマシだ。サバイバル経験なしの一般男子高校生である俺一人だったら、速攻で野垂れ死にする未来しかないからな。

しかし、もしこのインテリヤクザと一緒に行動できたとしても、はっきり言ってうまくやっていける自信がまるで出てこない。慶さんのほうが100倍ましだ。慶さんは話しが通じるタイプ、おそらくこの人は怖くて会話にならないタイプ。


まぁいいや、未来の俺に任せよ。

ビバ先送り。面倒ごとを請け負ってくれてありがとう、未来の俺。



……てか慶さん遅くないか?すぐに戻るって言ってたのに――




――ッッ!!



不意に耳を貫く涼やかな高音。

それと同時に、周りの景色が一変したかのように脳が錯覚した。

森の中を音が幾重にも反響する。

まるで森羅万象が楽器になったかのように独特のリズムを奏でる。

わけもなく走り出したくなるような、大声で歌いたくなるような、そんな熱量が湧き上がってくる。


不思議と聞く人の心を揺さぶるような美しさを持つ音色。



それを耳にした俺は無意識のうちに体を震わせていた。



………恐怖で


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異世界に飛ばされた6人のおはなし @CIHR

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