2‐32嘆きの患者と不穏な天啓
ぎこちない動きで
「ああ、やっぱり」
「これからさき、私はもう、琴を弾くことはできないんだわ」
「
「そうです、どうか悲観なさらず」
女官たちが背をなで、懸命になだめるが、萌萌はそれを振りはらった。
「嘘をつかないで。毎朝、鏡をみるの。今朝はよくなってるんじゃないか、元通りになっているんじゃないかって。でも、ちっともよくはならないのよ」
だが、鉱物はびくともせず、琴爪に絡んだ髪がごっそりと抜けた。指から垂れた髪には白髪がまざっている。艶やかな
「助けてよ、いま、助けて……できないんだったら、どっかにいって」
女官たちは項垂れ、無力を悔いるように
「承知しました。ですが、お声掛けいただいたら、いつでも参りますから」
女官たちは萌萌を気遣いつつ、退室する。
誰もいなくなってから萌萌は頭を抱え、悲鳴のような細い声でつぶやいた。
「ごめんなさい……わかっているのよ、あなたたちがどれだけ私に気遣ってくれているのか。でも、つらいの。つらくてつらくて、たまらないのよ……誰か、助けて」
宛てもなく
「嘆きから救ってあげましょうか」
琴の
「つらいのね。でも、神様はあなたを見捨てたりはなさらなかった」
「助けて、くださるの?」
窓から竹筒が差しだされた。救いをもたらす手は黄昏のなかで後光が差しているように映る。
「飲みなさい」
萌萌は震える指で竹筒を預かると、唇をつけた。
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