2‐26蒲公英珈琲
背篭を負い、腕にも大きな篭を抱えて、
篭からあふれんばかりに採取された植物の根を眺めて、藍星は
「草だろうなぁとはおもっていたんですよ。でも想像していたより草だったというか」
空洞になった茎にギザギザとした葉。黄金の釦に似た花。
「そんなに意外でしたか?」
藍星が「だって」と篭の後ろからひょこんと頭を覗かせた。
「
「
蒲公英は
「まずは木の薬で土毒を絶ちます。内出血を軽減すれば
内出血の原因は
「
「
「あ、そっか。血管のなかを循環しているうちは、血液こそが火の要素でしたよね」
「その通りです。
「茎を舐めたら苦いですものね……っとと」
草の根とはいっても、これだけあったら結構な重量だ。よたつきながら庖房まで運び終えた。桶に水を張って、蒲公英の根を浸ける。
「丹念に土を落としてから、竈をつかって乾燥させます。天日乾しでも構いませんが、時間が掛かってしまいますので」
「わわっ、こがさないようにしないと」
蒲公英の根の乾燥は藍星にまかせる。
「慧玲様、こっち、終わりました」
「ありがとうございます、それでは蒲公英の根を焙煎しましょう」
焙じたあとは
「最後に
杜衡は去痰薬、利尿薬だが、険阻な山岳地帯に根をおろした特殊な杜衡には
粉になった蒲公英を濾紙にいれ、湯を落として抽出する。
「お茶じゃないんですね。香ばしくていいにおいがします」
「
珈琲は豆だが、蒲公英は根だ。根のほうがより
味見した藍星が「苦っ」といって、しおしおになった。
「うう、苦いです、慧玲様」
「この苦味が旨みなんですよ。でも、飲みやすいほうが薬の効能もあがるので」
できあがったばかりの黒糖を落として、かき混ぜた。黒糖は血虚の薬だ。血を補い、脾胃を程よく温める効能がある。
「いかがでしょうか」
「わあ、こうなるとおいしいですね。まったりとしているといいますか、コクがあってこれはくせになる味わいだとおもいます」
挽き終わった蒲公英をみて、藍星が遠い眼をする。
「いやってほどに蒲公英をむしったのに、挽いたらこれっぽっちなんですね……」
「宮廷の女官に声をかけて、蒲公英の根をもっと収集してきてもらいましょう。いまはこれだけなので、重篤な患者に優先して処方しなければ」
盆に乗せ、患者のもとに薬を運ぶ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます