2-14「食医の姑娘を嫁にくれ」
「領海条約を締結する」
その晩の食膳では穀物の代替食をつかい、宮廷料理を再現した。特に
締めの
「締結にあたっては、そちらが提示した条件を受諾する」
「ただ、こちらからもひとつだけ、条件がある」
蜃王が給仕を務めていた
「この食医の
慧玲がぎょっとする。
鴆は微笑を崩さなかったが、眼差しが一瞬にして、険を帯びた。
「なに、親睦の証として他国の
「残念だけれどね」
こまっているふうを装いながら、鴆はきっぱりと拒絶する。
「彼女を、交渉の
「どうしてだ、女なんか、総じて貢物だろう。女を渡すだけで条約が締結できて、領海も拡がるんだ。安いものじゃないか」
蜃王は食卓に
「
「……勘違いなさっているようだが」
変わらぬ微笑から、ざわりと毒があふれだした。
「我等は
「……なんだと」
瞬時に鴆の意を理解して、蜃王の声が怒気を帯びる。
「それがどういうことか、わかってんのか」
侵攻し、領海を奪うこともできるという――あきらかな宣戦布告だ。
激情にかられて蜃王が振りおろした拳が、残りわずかだった杯を倒す。血潮がながれるように葡萄酒がこぼれた。
「
このことが火種となって蜃との戦争が勃発したら、どうするのか。これまで食を通じて、地道に信頼を築きあげてきたというのに。鴆だって、これまで辛抱を重ねてきたのがむだになる。
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