2‐13薬の姑娘だけが知る毒
「食医の
公客の晩餐から一夜明け、
「
「左様ですが、なにか急を要することがございましたでしょうか」
なぜ、後宮にいるのか、と言いたいところだが、さすがにそれは不敬にあたる。こちら側に降りてこないところからして、塀から覗いているかぎりは男子禁制を破ったことにならないと考えているのだろう。
「今朝の飯も食医が監修したとか。
「恐縮です。王様の御口に入るものは今後、私が監修および調理させていただきますので、ご安心いただければとおもいます」
「助かる」
頭をさげて通りすぎたいところだったが、
「
「左様ですが」
「ってことは、あの
思いも寄らなかった言葉に一瞬だけ、慧玲はぽかんとなった。
だが、そうか。意識したことはなかったが、
「惜しいな」
蜃王の眼差しが熱を帯びる。
「昨晩だって、俺に剣をむけられても、おまえはちっとも動じなかった。たいしたもんだよ。それにくらべて、あいつは遠巻きに眺めてただけだ。おおかた、剣なんかみたこともなくて臆してたんだろうよ」
「はっ、あまったれてるよなァ。
だから、蜃と争いになるのをおそれ、尻尾を振っているんだろうと、彼は言外に揶揄していた。
「……ふっ」
彼の想像が、真実とはかけ離れていたからだ。
慧玲がなぜ笑ったのかが理解できず、蜃王が首を傾げる。慧玲は敢えて鴆の話にはふれず、彼が持っていたうす緑の
「王様が持っておられるその
まだ寒い冬の終わりから春にかけて咲き続ける希少な花。異境では
「毒ですよ」
もうひとつの異称は〈食すものを殺戮する《ヘレボルス》〉という。
毒があるとは想ってもいなかったのか、
「
紅を差さない唇に微笑を湛えて、
「毒とは想えぬ毒には、どうかお気をつけくださいますよう」
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