2‐10南海の王は女の食医を軽蔑する
宮廷の
皇帝や皇后が食事を取るだけではなく、
だというのに、食殿には春らしからぬ険悪なふんいきが漂っていた。
「今晩もまた、
側近を連れた
露骨な嫌みにも
「大陸の宮廷料理は、
「どんなお偉い
扉がひらかれ、食膳が運ばれてきた。
「さっきの
慧玲は食卓に膳をおいてから、優雅に袖を掲げ、揖礼する。
「
蜃王が度肝を抜かれたとばかりに絶句した。だが、すぐに眉を逆だて、食卓に身を乗りだす。
「女の分際で
彼の指摘どおり、宮廷庖人は男の役職だ。社会において身分が低く、教養のない女に皇帝が食するものをつくらせるわけにはいかないと考えられてきたためだ。
「
「女がつける身分ではない」
「
喧々囂々と声が飛びかう。
慧玲は恥じるところはないとばかりに
「我が宮廷では」
静かな声が喧騒を割る。鴆だ。
「能あるものにふさわしい官職を与えている。異論があるのならば、食してからいってくれ」
ざわついていた側近たちが不承ながら、退きさがった。
「食医の膳が他ならぬ剋の総意だよ」
「
澄んだ
あたりに漂った磯の香を嗅ぎ、蜃王の側近たちがこらえきれずに唾をのむ。
「こんなもの、食えるか」
だが、蜃王は腹だたしげに吐き捨てた。
「拉麺は俺にとって毒だ。昔からまともに食えた試しがない」
「ご安心ください。王様の御身に障るものはつかっておりません。こちらは穀物をいっさいつかわず、
虚をつかれたように蜃王が眉根を寄せた。
「どういうことだ」
「先程から「毒」と仰せになっていますが、それらは王様にだけ、毒となるものではございませんか? 毒味役には毎度、異常はなかった。ですから、いまも毒味役をつけていない――違いますか」
側近たちがそろって、黙りこむ。
誰もが普通に食べている食事がなぜ、王にだけは毒となるのか、彼らも奇妙におもっていたのだろう。
「これまで毒が混入していたものは
「なにが違うんだ」
慧玲は頭をさげて拱手しながら、続けた。
「毒のないものが毒になる。これは、人体の免疫が過剰に働いた結果です」
感冒と一緒だ。感冒のときに発熱したり、喉が荒れて咳がでるのは免疫細胞が身のうちに侵入してきた
「王様の
「誤認だと? 俺の勘違いだとでもいいたいのか?」
「とんでもございません。逆です。王様にとって、穀物は毒となる。最悪、命にかかわります。ですから、徹底して穀物を排除した食を調えました。小麦ひとかけらたりとも混入することがないよう、鍋なども新調しております。ご安心して、御召しあがりください」
揺れる視線からは、強い葛藤がうかがえた。
誘惑がない、はずはない。これまで食すことのできなかった拉麺を、食べられるかもしれないのだ。側近たちが日頃からあたりまえのように食べ、「旨い」といっていた麺。うらやましくなかったといえば、嘘になる。
「信頼できるとおもうのか?」
「……命を賭せば、信頼していただけますか」
慧玲がひとつ、進みでる。
「この食が王様にとって毒となることがあれば、その時は、この命を差しあげます」
誓ったのがさきか。
「へえ?」
蜃王が腰に帯びていた剣を抜いた。
剣の先端が
「女の
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