2‐8家政婦、ならぬ女官藍星はみた
なんか、たいへんなところをみてしまった――
想ったとおり、
そこまではよかったのだ。
されど、その場にいたのは、彼女だけではなかった。
腰に掛かるほどの髪をひとつに結わえ、
(あれって確か、
鴆はあろうことか、慧玲にかけ寄り、華奢な肩を抱き締めたのだ。
「!」
胸が破れそうなほどに脈うつ。
(はわわわっ、こっ、これは逢引というあれでは!?)
まさか、そんな。
意外を通り越して、ひっくりかえりそうになった。
そんな彼女が、男と逢瀬。
今晩は雪どころか、槍が降るのではないだろうか。
だが、考えてみれば、彼女だって年頃の
恋に落ちることもあるだろう。
藍星は、敬愛する慧玲の恋愛ならば、全身全霊をもって応援したい。成就させてあげたい。その想いに嘘はなかった。
(ううっ、でも、なんでよりによって)
身分のある方にこんなことをいってはならないのだが――あれは、ぜったいに
なにがどう、というわけではないが、藍星の勘が報せている。
鴆の側にいるだけで奇妙な悪寒がするのだ。
昨冬、
(慧玲様、まさか騙されてたりして)
ばれないように再度、そろりと覗く。
ふたりはすでに離れていた。
だが、不運にも
(やばっ――)
鴆はなにを考えたのか、微笑みかけてきた。
唇にあてられた人差し指は妙な艶めかしさを漂わせているのに、「誰にも喋るなよ」という威圧感をともなっていた。
藍星は縮みあがる。悲鳴をあげないよう、慌てて口を塞いでから、脱兎のように逃げだした。
「~~~~!」
ごめんなさい、慧玲様。
藍星の声にならない声が、暮れかけた春の雲間に吸いこまれていった。
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