2‐6毒の皇太子は殺意を振りまく
「
気遣うような眼差しに「たいしたことじゃないから」と言いかけて、なぜだか、一瞬だけ声がだせなかった。
鴆はそんな彼女をみて、やり場のない憤りを滲ませた。彼は外掛から腕を抜くと、ふわりと華奢な肩に掛け、抱き寄せる。
「……震えているね」
「あとで殺す」
「
言葉の端々から毒があふれてきて、こちらまで総毛だつ。
「だめよ。このくらいのことで毒をつかうのはやめてちょうだい」
「……へえ」
しまった、とおもったときには遅かった。
「取りかえしのつかないことになりかけていたのに、あんたにとっては「このくらい」と言える程度のことだったのか。意外だったよ」
鴆は爪をたてるように腕をつかんできた。先程男に握られたところを、上書きするように容赦なく締めあげられる。
「だったら、いっそ――」
「だって」
毒を喀こうとする鴆を遮って、
「おまえがきてくれたでしょう」
鴆が不意をつかれたように息をのむ。
「私は、なにもされていない。おまえが、させなかった。だから、あれはもうなんでもないことよ」
腕を締めあげていた指がほどかれた。
鴆は降参だとばかりにため息をつき、
「……僕が間にあっていなかったら、この場であいつを殺している」
言葉だけではない。
彼ならば、殺すだろうなとおもった。
彼は皇帝という身分も宮廷も民すらもどうでもいいと考えている。ともすれば、呪わしいと怨んでいる。いつ、捨ててもおかしくはなかった。
いま、彼が宮廷に留まって、皇子という役を演じているのは先帝の
慧玲もまた女帝になりたいかと尋ねられたら、そうではなかった。だが、
あの
現状で推測していても埒が明かない。
「ところで、
鴆から身を離して、話題を変える。
「ああ、実はそれについて、食医である貴女の智恵を借りたくてね。後宮に渡ってきたところだったんだよ」
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