2‐5海からきた季節はずれの夏の嵐
黄昏に星がひとつ、あがった。
まもなく帳が落ちる。
きゃあという
「なんだよ、ここには
声のぬしは廻廊の角をまがって、こちらにむかってきた。
慧玲は想わず身構える。
顔を覗かせたのは
だが、なぜ、後宮に男が――
「はっ、なんだ、いい
男はいきなり、慧玲の腕をつかんできた。
身を強張らせる慧玲を強くひき寄せ、男はあろうことか、
ぞわりと背筋が凍てついた。
「いやっ、やめてください」
男はまさか、頬を張られるとはおもわなかったのか、虚をつかれたように
だが、彼はこらえきれないとばかりに笑いだした。
「くくっ、いいねぇ、気の強い
「やめてといっているでしょう!」
「そう、いやがるなよ」
振りほどこうと抵抗したが、手首を握りこまれて、身動きをふうじられた。がさがさに荒れた指が喰いこみ、折れてしまいそうに軋む。
「この俺に選ばれたんだ。歓んで、もてなせよ」
せめてもと果敢に睨みつけるが、男は喉を膨らませて笑うだけだ。
「非礼な振る舞いはそこまでにしていただこうかな、
聴きなれた声がして、慧玲が振りかえる。
これまでとは違い、帝族の身分を表す紫の服に身をつつみ、銀製の髪留めに
「この宮廷の妃たちは、
「まともに食えるものもだせないんだ。女くらいは、好きに選ばせろよ。それがはるばる海を渡ってきた客人にたいするもてなしってやつじゃないのか」
異人の男が嘲笑する。たいする鴆は冷静だ。
「貴公は
「はっ、お堅いこったな、興がそがれた」
蜃王は強くつかんでいた慧玲の腕をはなす。彼はつまらなさそうに袖を振りながら遠ざかっていった。季節を違えた真夏の嵐のような男だったが、そうか、あれが
「慧玲……」
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