2‐4梅の春妃の愛は散らさじ
嬪だったときは梅林園のなかに宮があったが、春の
水仙が
「春は変わらず
「宮廷は、変わりましたか」
「宮廷のなかはあれきり、
雪梅妃は辟易するとばかりにため息をついた。
「皇后陛下が統制しておられるとはいえ、あの御方は権力を握ることにはご執心ではないから。今後、誰が実権を握るのか、権力者たちの睨みあいが続いているわ。新たにあらわれた風水師の……ああ、違ったわね、皇太子様に取り入ろうとするものも後を絶たないでしょうね」
彼は宮廷の欲にまみれた毒に取りこまれるほど、愚かな男ではない。だから、宮廷が荒れていると聴いても、懸念はなかった。
慧玲は鴆を信頼している。正確には、彼の毒を。
(だって、彼ほどに強い毒はいないもの)
「どうかしたの、なんだか嬉しそうね」
「いえ、なんでもございません。それにしても――
「荒れているのは宮廷のなかだけじゃないわよ。外でもかけひきが始まっているのよ」
「外といいますと、地方の諸侯ですか?」
地方政権というものがある。
だが、雪梅妃は眉の端をはねあげた。
「あら、違うわよ。外政よ。七日も前から、南海の諸島を統轄する
「私も
眉を
「荒っぽい王様だったわ。
日頃から酔った男達を相手にし、扱いにも長けているはずの雪梅妃をして苦言を呈するほどなのだから、そうとうに酷かったのだろう。
蜃が野蛮というだけではなく、皇帝がいないため、他国から侮られているとも考えられる。
ふわりと風に乗って、梅の香が漂ってきた。
うつむいていた視線をあげれば、視界に梅林園が拡がる。
雪梅が愛した
「今春は例年になく、花つきがよいでしょう。
雪梅の声の端が、微かに震えた。
ああ、そうか。雪梅妃は心細かったのだ。
慧玲はいまさらに察する。
皇帝の
彼女は強い。だから、信頼するものにも弱音を洩らすことはないが、
雪梅妃は梅の側にかけ寄って、ふわりと袖を拡げる。
風が吹き、雪梅を抱き締めるように
「
あらゆるものが変わり続けるとしても。
きっと、たったひとつ、散らぬものが愛なのだから。
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