104元宵祭の天燈に幸福を祈る
皇帝の崩御から約一カ月が経った。
喪に服していた後宮も今晩だけは賑やかに華やいでいる。
元宵祭は
愁いをひと時吹きとばすようにして、祭りは盛大に祝われた。
元宵祭では日暮れから翌朝まで宴が続く。
「ほら、慧玲様もどうぞ」
「紙に願いごとを書くそうですよ」
「
「ええっとですね、故郷の家族が健康でありますように。母の病態が落ちつきますように。素敵な殿がたとご縁がありますように。御給金が増えますように。文官志望の弟の成績があがりますように……」
藍星は順番に指を折りながら、つらつらと願い事をあげる。
「そ、そんなにですか」
「せっかくですから、書けるだけ書いておかないと損じゃないですか! あ、あと、最後にもうひとつ」
まだあるのかと苦笑する
「慧玲様が幸せになりますように、と」
「……藍星……」
藍星は星のようなほくろに影を集め、眉の端をさげる。
「慧玲様。私には、慧玲様にとっての幸せがどんなものかは解かりません。でも解からなくても、願うことくらいはできます。願わせてください」
藍星は慧玲の道標だ。幸福からは遠い道ばかりを選んでしまう慧玲を明るい処に連れもどしてくれる。だから、慧玲は安心して、昏い
「ありがとう、藍星」
慧玲は筆を執り、暫くは思案したが、願い事が想いつかなかった。星に祈ることなど、ひとつもない。
無地の筒紙に火を燈す。
月にむかって、
人々の願いを乗せ、提燈は緩やかに舞いあがった。風に惑わされることなく、何処までも。燃える星を
天燈こそが、
「どう? 祭りは楽しめているかしら」
雪梅嬪が声を掛けてきた。後ろには
雪梅嬪は昨年の春振りに舞を披露したばかりだ。
「綺麗な祭りですね。毎年離宮から
「偶には息を抜かないとね」
雪梅嬪が
藍星はいつのまにかいなくなったとおもったら、元宵という茹でだんごを頬張っていた。もきゅもきゅと頬を膨らませて、非常に嬉しそうだ。屋台で購入したのだろうか。
「慧玲様もおひとつ、いかがですか」
「いいんですか」
「こんなに食べたら、肥っちゃうので」
この頃は人に食べさせてばかりで、自身は
元宵とは祭りの晩に食す伝統の
慧玲が頬を綻ばせる。齢にふさわしい微笑だ。
「よかった。そんな顔もできるんじゃないの。貴女、このところはずっと張りつめていたから。無理もないけれど」
雪梅嬪が優しく髪を梳いてくれた。
(こんなこと、
慧玲は想う。
(私は疎まれものだったのだもの)
だが、いま、彼女に寄りそって微笑みかけてくれるひとがいる。
幸せだ。
光に満ちた風景の端にふっと一陣の影が差す。
「……ああ、貴女、恋に落ちたのね」
雪梅嬪の嬉しそうな言葉が
月の盈虚にあわせて、海の潮が満ちるように群衆が動きだす。黒服の背に気を取られているうちに雑踏に揉まれ、慧玲は藍星たちと逸れてしまった。
「慧玲様!」
藍星の声が聴こえて、そちらに踏みだそうとする。だがその時、後ろから袖をひかれた。微かに漂った
闇に紛れるような黒服をまとった
遠くでは
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