101皇后の誘惑は新たなる毒
皇帝の死からひと晩明けて、
都は騒がしかった。日蝕が皇帝の死を報せていたのだと騒ぎたてるものがいれば、今度は皇后が女帝に君臨するだろうと噂するものもいた。
桶をかえしたような喧騒に背をむけて、
(もう宮廷に戻ることはないだろう)
敏く、強かで、果敢ない姑娘。透きとおった魂に地獄じみた毒を飼い、薬に呪われているくせして、誰かを助けるために調薬をして
哀れではないことがたまらなく、哀しかった。
彼女はこれからも薬であり続けるのだろう。
命を燃やして。
気晴らしに
鴆は通りがかった橋から玉佩を投げ捨てようとした。
「いいのかしら、捨ててしまって」
鈴のような声に振りかえれば、
「お母様の望みだったのではないの? あなたが皇帝になることが」
「どこまで知っている」
「全部よ。だって、
欣華皇后が総ての首謀者だったのか。臆病な
「貴方はいったい」
「ふふふ、さあ、なんでしょうねぇ」
(
皇后は嬉しそうに唇を綻ばせながら、鴆の瞳を覗きこんできた。
「ねえ、あなた」
虹を
「皇帝になるつもりはないかしら」
予想だにしなかった誘いに鴆は今度こそ、言葉を絶した。
「……つまらない冗談だ」
「冗談じゃないわ、
皇后は胸を張った。彼女がなにを考えているのか、微塵も読めない。毒蛇に絡みつかれても動じない
「
欣華皇后は袖を差しだす。袖に結わえられた鈴が微かに鳴って、
「あなたがちゃんと
「……食事、ね」
鴆は瞳の端を強張らせながら思考をまわす。
「それは昨今続いている、細かな紛争とも関係があるのか。戦線に遠征した時、貴方の姿を見掛けたことがある。長期間眠っていると偽っては、戦場に赴いているだろう?」
鴆の推察を肯定するかわりに皇后は唇を舐めた。
「ふふ、でもほんとうに
どうかしらと、誘惑される。
鴆は無意識に玉佩を握り締めた。
紫の
唇の端がゆがみ、毒々しい微笑をかたちづくる。彼はひき結んでいた唇を
強い
皇后だけがそれを聴き、華やかに微笑を重ねた。
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