98天毒の禍きたる
「――触るな、彼女は僕のものだ」
助けだすというよりは強奪するような腕に抱かれて、
蜂は皇帝を取りまき、いつでも刺せるとばかりに牽制していた。皇帝は鴆と蜂とを順に睨み、眉根をゆがめる。
「貴様は風水師――毒師だったのか」
「違うね、僕は鴆だ」
鴆は毒々しく嗤笑して、腰に
「
嵐が吹きつけ、雪は強くなる。紫電をはらんだ雲の
「敵軍を退けた時、
皇帝は顔を顰めながら、重い息をついた。
「そうか、貴様があの時の――毒か」
「毒、ね」
鴆が喉をのけぞらせ、嗤った。
熱のない嗤いだった。失望しかけ、もとから望みなどなかったことを理解して、自嘲するような。だが転瞬、彼は微笑を捨てた。
「
慧玲の濡れた頬を強張った指がかすめていった。
彼女は無意識に泣いていた。
「
毒を帯びた剣を振りかざして、
落雷だ。
慧玲は刹那、現実を疑った。
雷が、皇帝の頭上に落ちた――
天の槍にでも貫かれたかのように皇帝は一瞬で絶命する。
天の咆哮を想わせる凄絶な響きだ。訴えるは
煙をあげながら、皇帝が後ろむきに倒れていった。
「天、毒」
慧玲が
最悪が重なり、取りかえしのつかぬ禍となる――さながら命運を毒されるがごとく。
ああ、紛れもなく、これは。
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