85 一緒に復讐をしないか
「だから僕は、宮廷にきた。皇帝を殺し、帝族に復讐をするためにね」
語り終えた
「おまえはほんとうに、毒のために産まれ、毒のために命を繋いできたのね」
薬と毒は紙一重だ。
鏡映しの地獄を、互いに渡ってきた。
鴆は窓に腰掛けて
「
幼い頃から植えこまれた怨嗟はすでに魂にまで根を張っている。復讐せずにはいられないのだと、彼は唇の端をゆがませた。ともすれば、母親のためですらなく。
「それが毒として産まれたということだ」
「母親は僕が皇帝になることを望んでいたが、僕は願いさげだね。僕の望みは皇帝にたいする復讐だけだ。帝族なんか根絶やしになればいい」
彼は呪詛を喀き、烟が昇るようにゆらりと視線をあげた。
「一緒に復讐しないか、慧玲」
果敢なく微笑して、
慧玲は視線を彷徨わせて竦んだ。
「僕は先帝に一族を滅ぼされ、
「……私は薬よ」
「だからだよ。現帝は毒だ。毒をもって毒を制するだけのことだよ。貴女にはそれができる――僕を選べ。貴女は毒になるべきだ」
これまで慧玲はいかなる毒にも堪え、薬であり続けてきた。
燃えさかる
(でも、それも絶たれてしまった)
彼女に薬であれと教えた母親は、最後には毒となって、息絶えた。
母親は、慧玲が
恩を受けたとおもっていた皇帝も、実際は先帝に毒を盛った
「……貴女が望むのなら、皇帝を毒殺した後は一緒に逃げようか」
鴆が痺れるほどにあまやかな響きでいった。
「皇帝から毒を
「なんで、そんなことをいうの」
慧玲が緑の瞳をゆがめる。
(愛おしむように言葉をかけないで)
鴆は窓から腰をあげ、風を掻くばかりだった慧玲の腕をひき寄せた。華奢な腰を抱き締め、彼は誘いかける。
「薬なんかは棄てて、楽になってしまえよ」
銀の髪を梳きながら、鴆は孔雀の
髪が解ける。
慧玲は無意識に笄を取りもどそうと指を伸ばす。鴆は薬を棄てられない彼女の様子に
「また逢いにくるよ」
烟の余韻を残して、鴆は窓から宵の帳に紛れていった。
残された慧玲は崩れるようにすわりこむ。投げだされた笄を拾いあげる力もなく、彼女はただ、項垂れた。
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