第五部《土の毒》は蝕む
79 回想…先帝と現帝 いかにして渾沌の帝は討たれたか
時は、昨年の秋にさかのぼる。
菊の風が吹き渡る宮廷で皇帝が盛大な宴を催していた。
皇帝の姓は
彼が酒を満たせと掲げる盃は、敵の
安堵して唇を緩めた妃妾の頚がずれて、落ちた。
「そなたが死ねばよいだけのことだ」
血潮が噴きだす。妃妾たちは悲鳴をあげかけて、なんとか、のむ。さもなければ、今度落ちるのは自身の
嗤い続ける皇帝の瞳は血に飢え、濁っている。
宮廷の枝葉を紅に染めるのは、秋風ではなく吹き荒ぶ血の嵐だった。
誰もが憂う。
あれほどまでに敏く、勇敢で、人徳のある君帝であったのに。
その時だ。宴の場に踏みこんできたものがいた。索盟皇帝の兄である
「兄上か。どうだ、ともに飲もうではないか」
「陛下、私が献上した異境の蜂蜜酒は御気に召して頂けたでしょうか」
「左様であったか。ああ、非常に甘露だ」
「それはようございました」
「それでは私も有難く頂戴致します……」
だが斬撃は
「この程度の剣で殺すつもりだったとは。侮られたものだな、兄上」
「さすがだな。落ちぶれようとも、剣だけは衰えぬとみえる。剣ではとうとう、一度もそなたには勝てぬようだ」
索盟皇帝は廻廊に控えさせていた側近たる武官にむかって叫ぶ。
「謀反だ――――
一拍後れて廻廊から現れた武官は、胸から血潮をあふれさせて満身創痍の様だった。
「御逃げ、ください……陛下。
それだけいって、武官は絶命する。
雪崩れこむように
毒だ。
雕の贈った酒は、水銀蜂の蜂蜜を醸したものだったのだ。
索盟皇帝が血潮を喀きながら、雕を振りむく。濁りきっていた索盟皇帝の瞳が一瞬だけ、澄み渡った。
「ああ、……そうか、お前だったのか」
「……私は、そなたの補佐も充分にできぬ愚兄であったが……それでも、弟のあやまちを糺すのは兄の役割だッ」
最後は喉を猛らせて、
腹を刺され、毒に侵された索盟皇帝は何か言いたげに唇を動かしたきり、気絶する。
「
続けて
「
廷臣たちは雕に跪き、軍は剣を掲げて、高らかに歓呼の声をあげた。
「
歓喜の渦は宮廷を擁し、都にまで拡がっていく。渾沌の終焉を報せる鐘のように。
……
「……あの時の夢、か」
先帝を廃してから、五季が経った。約一年と三カ月。光陰矢の如しと
正午を報せる鐘が響いてきた。
思索を振りほどいて、皇帝は
前触れもなく
窓に視線をむけた皇帝は、
日輪が端から陰っていく。蟲にでも喰われるように。
「……
燃えさかる火か。違う。あれは。
皇帝が青ざめ、震えだす。
「っ……ぐ、あぁ……」
突如として皇帝が頭を抱えて、崩れ落ちた。
皇帝を襲ったのは
「なにかございましたか、っ……これは」
皇帝の尋常ならざる様子をみて、衛官は大慌てで飛びだしていった。
「直ちに宮廷中の
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