70 毒師と毒師は剣をまじえる
草も木も眠る
青い蝶だ。昼に舞うのが蝶、宵に踊るのが蛾だとすれば、これは蛾なのかもしれない。
(さながら
先程も皇帝が乗った
(
皇后から命じられて鴆が毒殺しているのは後宮の妃嬪などではなく、宮廷の官職や士族といった、政にかかわる宮廷の要人ばかりだった。皇帝の意なのか、皇后が単独で動いているのかは鴆には解らない。
(ほかにも毒師がいる。それだけならば、捨ておいても構わないことだ。だが、あれを調毒できるのは同族だけ)
毒師の素姓を確かめるため、鴆は
蝶は窓の格子をすりぬけて、春の季宮の一郭にある
房室は昏かった。
男が窓に背をむけ、調薬を続けている。無造作に散乱しているのは鉱物をおもとした毒だった。
「僕のほかにも
鴆が声を掛ければ、ようやくに男は振りかえった。男――
「
「へえ、解るのか」
「
「さあ、どうだろうね」
「あの晩、集落は燃え落ちた。……月のあかりが絶えた凍えるような晩だったね。一族は地獄の劫火に喰われ、言葉通り根絶やしとなった。骨も遺らなかった。あの時の怨嗟は、先帝が処刑されたとて晴れず、胸の底で燃え続けているはずだ。違うか」
「……わすれられるはずがねェよ」
重い沈黙を経て、卦狼は喉を低く鳴らした。
「いまだに夜ごとの夢のなかじゃあ、焔が燃えてやがる」
鴆が唇の端をもちあげる。
「僕とともに復讐をしないか」
「先帝は死んだ」
「だが帝族はなおも君臨し続けている」
唾棄するように鴆が言いきった。
「これは帝族にたいする怨嗟だ。そうだろう。散々一族の毒に頼ってきたくせに、
あんたは許せるのかと鴆は、人が最も触れられたくない傷に毒を垂らす。
「
卦狼が惑った。時を経て薄れてきていたはずの創痕を抉りだされ、とうに燃え滓となっていたはずの絶望から一縷の火が
「……許せねェな、だが」
卦狼は毒にのまれなかった。蜘蛛の糸を振り払うように彼は
「俺はいまさら復讐をするつもりはない」
一閃。剣を抜きはなったのは鴆が先か、卦狼が先か――或いは同時だったか。
二振りの剣が暗幕を裂いた。
衝突。風が弾ける。
続けて二撃。これもまた短剣と刀が絡まるばかりで、互いの身には及ばなかった。
「手練れだね。調毒だけではなく妃嬪の護衛もしていたのか」
「貴様も強ェな。細いくせに一撃が、重い」
喋りながら、卦狼は剣を押しかえす。
単純な
鴆が振るうのは短剣だ。剣身は黒曜石で造られ、猛毒が施されていた。かすり傷でもつければ、一瞬で毒がまわる。たいする
風が呻るような剣戟。
「っ……」
鴆の短剣が嵐を縫うように掻いくぐって、卦狼が肌身離さずにつけている
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