67 春の命に祝福を
春の宮は賑やかだった。
さきがけて春祭の催しかと想われるほどに華やいでいる。聞けば、
春の季妃は姓を
李紗妃は幼けなさを漂わせた
李紗妃が帰るまで慧玲と藍星は廻廊で控えることになった。
唐木の飾り格子を通して女ふたりの華やいだ声が聞こえてくる。
「
「有難き御言葉です、
「なにか必要なものがあれば、遠慮なさらずに声を掛けてくださいね。雪梅嬪の御家は高貴な
廻廊では
妃ほど身分のあるものが宦官をつれているというだけでも異様だ。宦官はぎろりと慧玲を窺うように一瞥した。
「その
ひび割れた低い声だった。
「左様でございます」
なにか、と続けたかったが、
(いやな臭いがする)
体臭、ではない。もっと深いところから滲みだすにおいだ。
「わたくしはこれにて失礼いたします。お寒いですので、どうかおいといくださいね」
李紗が退室してきた。彼女は宦官に微笑みかける。
「さあさ、参りましょうか。
「しっつれいな男ですね、こんなに綺麗な銀の御髪にたいして
「散ってもいないのに、取りかえるのはもったいないでしょう」
「その後、御変わりはございませんか」
「いたって健康よ。この
「
「ええ、陛下から賜ったのよ。
「健康とは医者のみで
待望の
意外でなかったといえば、嘘になる。
(ああ、わすれていた。伯父さまは昔から情が厚い御方だった)
皇帝が
脚の動かない
政を敷くかぎり、情だけでは動けない。
慧玲を処さなかったのも地毒を制するために必要だからだと想っていたが、姪にたいする情もあったのだろうかと今更ながらに想う。
(仁慈があったからこそ、あれほど慕っていた先帝を制することもできたのだろう。そうでなければ、あのように気の弱かった伯父様が父さまに剣をむけられるはずがない。余程の決意だったはず。その恩に報いなければ)
「貴女も抱いてあげて」
「宜しいのですか」
雪梅嬪から嬰孩を預かる。暖かな重みがあった。命の重さだ。
「なにがあろうと、護ります」
「ありがとう」
雪梅嬪は綻ぶように微笑んだ。
彼女は今、幸せのなかにいる。そんな雪梅嬪に敢えて話すことではないかもしれないとはおもった。
だが明確にしなければ、
「……雪梅嬪に毒を盛ったのは誰か、調査はなさっているのですか」
「それは……」
会話を遮るように横の
「おまえが雪梅様に毒を盛ったんだろう!」
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