19 毒の暗殺者は嗤う
青銅の
「……気のせいか」
左丞相が再度文書に目線を落としかけたところで、今度は彼のすぐ背後で廻廊の床が軋んだ。
「……
「左様です」
唐木の
「今度こそ、息の根をとめてきたんだろうな」
「それについてご報告に参りました」
鴆が声の端々に喜色を漂わせながらいった。
「
「なんだと」
左丞相が
「だから殺すのはおまえにするよ、左丞相」
「な……なんだ、これは」
視線を落とせば、左丞相の親指には蜘蛛が乗っていた。紫の繊毛が毒々しい蜘蛛だ。腕を動かして払いのけたくとも、痺れた指が微かにはねただけだった。
「依頼を破棄するときには依頼者を殺す――暗殺者の掟だ。知らなかったのか。
左丞相は青ざめて、声をあげた。
「だ、誰か! 誰か、おらんのか」
「助けはこないよ。
「こ、こんなことをして……許されると、おもっているのか。
喚き散らしていたが、神経毒がまわってきたのか、舌が
「誰、ねえ?
虚空を睨みつけていた左丞相の眼が白濁して、眼の裏からどっぷりと血潮が溢れてきた。眼から鼻から逆流する血が
「いい
鴆は毒蜘蛛を褒めてから漢服の袖に隠した。
「如何に富を築いても満たされることなく、権威にしがみつき財を欲し続けて、身を滅ぼす……あたかも亡者だ」
みすぼらしいなと眉根をゆがめた。
鴆は廻廊の屋頂にあがり、月を吸って黄金掛かった瓦を踏みしめる。微かな音もさせずに宮廷の屋頂へと渡った。
「それにくらべて、彼女は」
鴆は
可哀想なだけの
だが彼女は、哀れなどではなかった。
孔雀の羽根を髪に挿し、緑の絹に青き帯を締めて。華やいだ微笑を唇に乗せても、媚びて、
「毒を喰らう毒か」
華にはかならず、毒があるものだ。
美しければ、美しいほどに凄絶なる毒が。
「ああ、たまらないな」
鴆は
風に髪を曝して、鴆は不穏に微笑む。
「
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