第14話【sideクラリス】絶体絶命
マチョスたちが聞いた音の正体。
それは【レアムーン】の
「アイリア! 畳み掛けて!」
「ああ!」
魔法攻撃により怯んだ魔物に向かって、
しかし、魔物はすぐに体勢を立て直し、アイリアの剣を軽々掴んだ。そして、そのまま彼女を壁に向けて放り投げた。
「
すかさず
パーティのリーダー、クラリスは歯噛みする。
このダンジョンは比較的危険度の低いダンジョンだと聞いていた。
しかし、今目の前にいる魔物、オークキングはS級の魔物だ。
こんなところでなんでこの強さの魔物が。クラリスは、自分たちのパーティの全力をもってしても、苦戦しているという現況を受け入れ難かった。
「クラリスさん! 避けて!」
ライラの声に、クラリスはハッとなる。
見れば、オークキングの拳が眼前まで迫っていた。
「ギガファイア!」
再び魔法を繰り出し、間一髪のところで回避の隙を作った。
しかし、相手に魔法は効いていない。
やはりギガクラスの魔法は一切通用しないか、とクラリスは頭を抱えた。
撤退を考えるか。
一刻も早くこの危険な魔物の存在を学園の教師に伝え、授業を中止させる。それがS級冒険者としてすべき仕事だ。
「アイリア! 立てる?」
「問題ない。既にヒールが効いている」
「アナタが
「同感です! 早く学園の方々にこのダンジョンから退出よう指示する必要があります!」
「分かった。防戦に徹するなら私一人でも保たせられる」
やはりアイリアは頼りになる。
クラリスはアイリアに魔物の相手を任せ、退路を探る。
「――ッ!」
クラリスは絶望した。
探知魔法を使って退路となりうる道を探った彼女には見えてしまった。
すべての道に、オークキングの施した完全分身体が設置されている状況が。
逃げられない。
しかし討伐も不可能。
絶対絶望の状況だった。
「クラリスさん?」
ライラが心配そうな顔でクラリスを見る。
どうするべきか。最後の切り札を使えば、アイリアとライラ、そして学園の生徒の命は守れる。
自らの命を犠牲に、オークキングを道連れにする魔法。
やるしかない。
これは【レアムーン】のリーダーとしてクラリス自らが受けた仕事。ならば、その仕事は「命を懸けて」でも達成する責任がある。
「ライラ、あれを使うわ」
「――そんな!」
ライラはクラリスの意図に気付いたようだ。必死に止める声が聞こえるが、それを無視してアイリアに向かって叫ぶ。
「アイリア! もう少しだけ時間を稼いで! 死なないように気をつけて!」
「分かっている! それより退路はどこが最適だ! こちらも余裕がない!」
「サクリファイスを使うわ!」
アイリアの動きが鈍くなった。
彼女もクラリスの意図を察したのだ。
「どういうことだ! 退路は!」
「探知の結果、撤退不可と判断したわ。二人共冒険者でしょ。このくらいのこと、受け入れなさい!」
冒険者は命がけの仕事。
ギルドで冒険者として仕事を始めたときから、それは常識として常に意識してきた。
二人もそれを理解している。
もはや、二人共クラリスの決断を止めることはしなかった。
「詠唱の準備をするわ。アイリア、時間稼ぎよろしく。ライラ、アイリアのサポートを」
「……分かった」
「……はい」
仕事は果たす。
そこに一切の余念はない。
あるとすれば。
「マチョス……最後にアンタともう一度、ちゃんと話をしたかったわ」
クラリスは心のなかでそう呟き、命を犠牲にした魔法への準備を開始した。
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