第11話【side:クラリス】マチョスがいなくなってから
マチョスがダンジョンに潜ろうと意気込んでいる頃。彼を追放したパーティ【レアムーン】は、次のダンジョンに向かっていた。
「マチョスがいなくなってから、ダンジョン攻略がスムーズになったな」
アイリアの発言を受けて、【レアムーン】のリーダー、
「まったくその通りね」
クラリスは杖を掲げる。
「武器も杖も壊されることはなくなったし」
彼女は早口で続ける。
「危ない場面でも退路があるだけで、何倍も攻略がしやすくなるのね」
アイリアが剣を掲げる。
「敵が逃げ出す前に、私の剣を振るうことができる。戦士としての誇りを取り戻せた気分だ」
「皆さんに【治癒魔法】が届き、なにより壁に向かって押しつぶされる恐怖がなくなって、毎日安心して眠れます」
各々が清々した顔をして歩みを止めた。
三人は同時に口を開く。
「「「でも、荷物を運ぶのが少し面倒」」」
とはいえ、彼女たちの荷物はそこまで多くない。
「面倒なだけでこれだけ快適な攻略ができるなら、安いくらいだな」
筋力のあるアイリアにとっては、大したことではない。
「私は少し疲労が溜まりやすくなりましたが、死にかけるよりはマシですね」
ライラは非力だが、それでも荷物持ちが必要というほどではない。
「まあそうなんだけど……なんか寂しいのよね。それにあの噂も気になる……」
クラリスは小声でポツリとこぼした。
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもないわ」
アイリアの問いに、クラリスは淡々と答えた。
「それにしてもクラリスさん。今回の仕事って、ロイン王国のダンジョンで、魔法学園の生徒のお守りですよね?」
「ええ」
「なんでそんなショボい仕事を受けたんだ? はっきり言って私達には不相応な仕事だと思うが」
二人の疑問に対して、クラリスは少しの間悩んだ末、ついには理由を話すことを決心した。
「二人には言ってなかったけれど……実はロイン魔法学園で『マチョス』という名前の生徒が大暴れしているという噂を耳にしたのよ」
「学園もかわいそうに」
「あんな化け物を入学させるのが悪いと思いますよ」
名前を聞いただけで、アイリアとライラは学園が悲惨な状況にあるということを、即座に理解した。
そんな二人に対して、クラリスは新たな情報を提示する。
「でも、その『マチョス』という生徒は、見た目は至って普通の少年なのだそうよ」
「なんだ、同じ名前の別人か」
「珍しいこともあるものですね」
噂の生徒の外見的特徴を聞いただけで、アイリアとライラはそれが「自分たちの知るマチョス」ではないと、即座に決めつけた。
そんな二人に対して、クラリスは追加情報を提示する。
「でも、その『マチョス』という生徒は……。たまにとんでもなくデカくなって、とんでもなく難聴で、とんでもなく独り言が多いそうよ」
それを聞いたアイリアとライラは、クラリスの意図を完璧に理解した。
「それはどういうことなのか気になるな」
「状況を確かめる必要がありますね」
「でしょ? だからその仕事を受けたのよ」
三人は顔を見合わせて、同時に口を開いた。
「『マチョス』がどうなったか確かめに行くわよ!」
「『マチョス』を仕留めに行くぞ!」
「『マチョス』さんによる被害を止めなければ!」
こうして、【レアムーン】はマチョスの潜ろうとするダンジョンへ足早に向かったのであった。
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