第8話 お金と宿
「結局これだけか……」
スコの手元には1つの魔石が握られている。あの後近くの昇降機まで戻るついでにモンスターを5体程倒して何とか5個分の魔石は手に入った。一応合成しないように左右のポケットに1つずつ。ズボンの後ろポケットに1ずつ。そして左手に1個握った状態だ。換金するときに数が多い方がいいか、それとも合成していた方がいいのか、さっぱり分からないため持てる最大数だけ倒した形だ。
第1階層の壁側には結構な場所に昇降機があり、そこへ戻っていく
「あれ……みんな組合は寄らないのかな」
以外に昇降機を上がった
カタパーン
「あら……見ないか顔ね」
「な、なんですか!?」
突然テーブル越しに顔を近づけられたためスコは思わず大きな声を出してしまう。そんなスコの反応が面白かったのか受付のお姉さんは笑みを浮かべながらスコに話しかけた。
「いらっしゃい。はい魔石出して」
「え? あ、はい」
言われるがままにポケットから5個の魔石を取り出しテーブルの上に置いた。それを慣れた手つきで受け取ったお姉さんはそのまま魔石を手の中で合わせるようにくっつけ合成した。
「ふーん、君みない服装だし他所からきたの?」
「はい。そうです」
「その軽装から察するに今回が迷宮初体験って事よね。よく生き残ったわね」
偉いわなんて言いながら合成された魔石を持ち上げ何か透明なレンズのような物で魔石を見ている。もう何をしているのか分からないため、思い切って聞いてみる事にした。
「あのそれは何してるんですか」
「ああ。これは翡翠魔石の魔力濃度を調べているの。ほら魔石は合成すると色が濃くなるでしょ? ただそれだと正確な数値って分からないからね。この魔石鑑定レンズを使ってどの程度の濃度なのか調べてるの」
その話を聞いてスコはやっぱり、魔石は合成するものなんだと内心で考えていた。これなら今後は同じポケットに入れてどんどん魔石を合成してよさそうだ。ただまだ確認しないといけない事がある。だがそれをここで聞いていいのか分からない。そう悩んでいると鑑定が終わったらしく受付のお姉さんは何やら細長い緑色の木の板を7枚テーブルに乗せた。
「はい。これとりあえず緑7ね」
「あの……これって何です?」
流石にこれは聞かねば分からないと思い恐る恐る聞いた。
「あ、そういえばアタは初めてだもんね。これは迷宮都市アタで使ってる通貨よ。下から緑、青、赤、白、黒って変わるわ。緑10で青1と同じよ。それ以降も同様ね」
「えーっとじゃ青15は赤1青5みたいな感じですか?」
「そうそう。よかった計算は出来るのね。あ、一応これはアタでしか使えないから注意してね。一応別の都市に行く場合、商人の店とかでも交換できるから聞いてみてね」
なるほど。てっきり金貨とか紙の貨幣とかそういう奴なのかと思ったけどまさかこんな木の板だとはスコも思っていなかった。偽装されそうだけど大丈夫なのかと心配になる。だがよく見れば何かエンブレムのようなマークが刻まれているようなのである程度対策はしているのだろう。
「ちなみにこれで泊れる場所ってあります?」
「あるにはあるけど、その程度だと安宿しかないわよ?」
「泊まれさえすれば大丈夫です」
「ちょっと待ってね」
そういうとお姉さんは大きめの紙を取り出しそれをテーブルに広げた。そこには中心に大きな丸が書かれ、それを囲むように何か記号が手書きで書かれている。
「ここが現在地ね。でここの東エリアにある4番通り」
現在地の場所を指さしてそこから東エリアと呼ばれた場所まで指をなぞって説明している。スコは東エリアと言われ昼前に出会ったハイデルンが近くにいる事を思い出す。
「ここにあるブ・ヨージインって場所。確か緑5枚で泊れたはずだけど、防犯がまったくないから本当に気を付けてね」
「大丈夫です! 貴重品なんてないので……」
そういうと木のお金を受け取り俺は組合所を後にした。言われた通り東エリアと呼ばれる場所までゆっくり歩いて移動し4番通りと言われた場所を歩く。かなり広めに作られた通りをそのまま歩いて通りのテントにぶら下がっている木の看板の名前を1つ1つ確認しながら歩いて行った。そうしてしばらく歩くと3番通りに出てしまった。
「ってあれ? 見逃した?」
もう一度4番通りをもっとゆっくり目を凝らして歩くが気づけば5番通りに出ていた。
「は? おかしいぞ」
それから何度か4番通りを往復したがそれっぽいテントが見つからない。仕方ないのでスコは近くの出店をしている人へ聞くことにした。
「あの、ごめんなさい」
「お、いらっしゃい。良い蒸かし芋あるよ」
看板には芋1個が緑1枚と書かれている。これなら1個買っても大丈夫なはずだ。
「じゃ一個下さい!」
「はいよ!」
木で出来た籠のような中から蒸かされた芋を渡された。ちなみに冷めている。
「ありがとう。ね、この通りにブ・ヨージインって宿があるって聞いたんだけど知ってるかな?」
「ああ。ほらあそこだ」
そういって店のおっちゃんが指を指した方向を見る。だがその方向には違う店のテントガ並んでいるように見えた。
「え? あそこですか?」
「いや、そこの家の間にちょっと危ない道があるだろ。あの奥にある建物がブ・ヨージインって宿だよ」
確かにあのテントの間に危険な道、というか狭い道がある。スコはおっちゃんにお礼を言って言われた通り狭い道に足を踏み入れた。テントとテントの間の狭い道を進んでいくとちょうど表のテントの裏側になる場所でようやく目的地を見つけられた。
「ごめんくださーい」
少しカビ臭いにおいがするテントの中に入るとヨボヨボのじいさんが床に座っていた。スコが来たのを見たのか小声で「1泊緑5だよ」と聞こえた。スコは黙ってポケットから木の札を取り出しじいさんに渡す。するとじいさんが立ち上がりテントの奥へ向かっていったので後をついていくとまた外へ出た。そこには1人用のテントが6個並んでいる。6個のテントの内2つは入り口が閉まっており4つは入り口の布が4つ開いている。中央には井戸のような物があるためここから水を飲めるのだろう。
「好きな場所選べや」
「じゃここで」
一番端のテントを選ぶとじいさんが手元にある平べったい板を渡してきたのでそれを受け取る。それを渡したあとじいさんはまた最初に通ったテントの方へ向かいながらいくつか注意事項を放し始めた。
「明日の朝1番の鐘が鳴ったら出ていけ。出ていくときはその割符を儂に返せ。飯はない。暴れるな、問題起こすな。いいな」
「はーい」
そうしてスコは自分で決めたテントの中に入ると小さな木の板だけが置いてあり端には布団のようなものが置いてある。テントの入り口の方を見ると上の方に入口を閉めるための布が巻かれてあったのでそれを解き、入り口を閉めた。
まっくらになったテントの中で買った冷めた芋を食べてこれからの事を考える。特にやることがなく雰囲気で迷宮へ潜ることになってしまったスコだったが、今後生活をするためにはまず迷宮でお金を稼ぐ必要がある。何故か飯は芋しかないし、家はテントしかない。色々変わった世界だけど、精一杯頑張ろう。そう思って布団へ包まり眠りについた。
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