第7話 カタパーン迷宮 第1階層
昇降機を使い1mの距離を降りたスコは迷宮の中に入り小さな感動をしながら周りを見ていた。巨大な穴のような迷宮のため中に入ると当然外側は壁だ。そして内側はまるで地獄へ続いているかのような穴が空いている。だが誤って穴に落ちないように柵がひかれている。伊達に80年近く攻略している迷宮ではないという事なのだろう。地面は草が生え木々も生えており外の平原とあまり変わらないように見えた。
「面白いな。でもここにもモンスターでるみたいだし注意しないと」
そう独り言をつぶやきながら適当にマゴノテを振り回しながら進んでいく。よく見るとスコと同じようにこの1階層を探索している
「あれは外にいた変な鬼と同じかな」
スコと小鬼の距離は約50mほど。こちらから向かった方が良いか考えていると先に向こうが動いた。小鬼は「ギィ」と叫びながらすさまじい速度で近づいてくる。前回も驚いたがその素早さにスコは驚愕した。
「た、盾構えなきゃ」
一度戦った小鬼だがやはり走って襲ってくるのは恐怖感が半端ない。スコは左手を震えさせながらもしっかりと盾を構えた。約10秒程で50mの距離を縮めてきた小鬼はそのまま拳を振り上げて殴ってきた。2回目の戦闘だがやはり人型の生き物が襲ってくるというのは普通に怖い。
「ひぃ!」
「ギィイイッ!」
パコンッ! 盾越しに凄まじい音が聞こえる。うまく防御出来たことにスコは安堵するがこの小さな盾で防げるのは一撃だけだった。続いて小鬼が別の腕振りかぶり盾の隙間を縫うように拳をスコへ放つ。
「あいたッ!」
スコの右肩に小鬼の拳が当たる。しかしそれだけだ。確かに軽い痛みはあるが死ぬような攻撃ではない。思わず痛いと声を出したスコだったがやはり外にいたモンスターと攻撃力は変わらないと気づくとすぐに持っている枝で小鬼を小突いた。
「ギィー!」
そう叫び声をあげて小鬼は煙を上げて消えていく。そして以前も見た小さな緑色の石へ変わった。スコはゆっくり構えていた盾を下ろして足元の石を見て拾う。やはり同じ石のようだ。それをポケットに入れて先ほどの戦闘を振り返ってみた。
「外で戦った時と同じで当たっても痛くない。あのオセッカさんが言う通り大したことないみたいだな」
とはいえ油断はできない。スコ自身の命がかかっているのは変わらないのだ。だから当初の目的通りまずはレベル上げをしようと考える。
「よし、まずは1階層でどんどんあの変なやつ倒すぞ」
それからスコは走った。この世界に来てから比較的長く走れるようになったため動くのが楽しいかったのだ。そして積極的に小鬼を見つけて殴っていく。偶に2体いる時もあるがそれでも相棒であるマゴノテを少し慣れてきた手つきで小鬼の頭を強打していく。
【レベルアップしました】
頭の中にアナウンスが流れた。1層に入って既に何十体もモンスターを倒しておりレベルアップも何度かしている。レベルが上がるにつれ少しずつ自分の身体が軽くなったように感じ、また長く走れるようにもなってきた。以前はいくら筋トレをしてもまったく筋肉が付かず、またどれだけランニングしても持久力が付かなかったことを考えると本当に大きな成長であり、何よりそれがスコにとってとても楽しいものだった。
【レベルアップしました】
既に何体倒したかも覚えていないスコだったが倒したモンスターから得た魔石をずっとズボンのポケットに入れている。最初魔石を入れていたのだが途中でスコはあることに気づいた。それはいくら魔石をポケットに入れてもポケットが膨らまない事だ。不思議に思いポケットの魔石を取り出してみるとなんと1個しか入ってない。
当然スコは疑問に思ったのだが試しに先ほど倒したモンスターの魔石をポケットに入れてみる。ポケットの上から触ると確かにそこにある。その状態で先ほど取り出した魔石を同じポケットに入れると不思議なことが起きた。2つあった魔石が1つにくっついたのだ。
そこからスコがいくつか実験した結果気づいた事。魔石同士を近づけると合体する。そして合体した魔石の色は少し濃くなっているのだ。これが何を意味するのか分からない。ただ魔石を集めろしか言われていないからだ。
「多分換金できるんだと思うんだけどな」
そう呟きながら随分濃くなった魔石を右手に持って宙に投げて遊んでいた。しかし何度目か出来事だ。落ちてきた石をキャッチし損ねてしまう。人差し指で弾いてしまった魔石はまた思ってもいない場所に飛んでしまう。それを慌ててキャッチしようとしたがそれも失敗し魔石は地面へ直行する。
「ちょ、待って!?」
咄嗟の出来事だった。自分の手の届かない方向に飛んでいく魔石を捕まえるためスコは思わず愛用のマゴノテで魔石を下から叩きもう一度上に飛ばそうとした。だがここでスコの予想外の事が起きる。それはマゴノテにあたった魔石が砕け一瞬緑色に光ったと思ったらまるでマゴノテに吸収されるように消えてしまったのだ。
「は? え、は? まじ!?」
目の前で起きた事が信じられず茫然としてしまうスコ。そして次にステータスを確認する事にした。
「ス、ステータス」
すると地面に文字が現れる。
===============
名前:スコ・カタタキ
称号:ネオ・ボッチ
種族:人間
レベル:7
筋力:15
速さ:13
持久力:14
精神力:55
スキル:ダダッコ、辻斬りメンゴ
装備:木剣マゴノテ改+3
===============
「なんじゃこりゃ……」
筋力とかが上がっているのはいい。レベルが上がったのだ。だが色々突っ込みどころがある。まず辻斬りメンゴって何だとスコは頭を抱えた。原因は分かっている。小鬼を倒す時調子に乗って辻斬りメンゴって叫びながら頭を殴っていたからだ。
「ダダッコも意味分からないのに、なんだよこの変な名前のスキル……しかも称号も変わってるし、なんだよネオ・ボッチって……」
そして一番気になっていた問題は相棒のマゴノテだ。名前が変わってる。しかも変なプラスが付いている。スコは恐る恐るステータス欄にある装備のマゴノテという部分を突いてみた。すると説明文がさらに地面に表示される。
装備:木剣マゴノテ改+3。 翡翠魔石によって強化された枝。相手の肩をパーンするとダメージ倍増。
「お? 名前は変だけど妙な効果ついたぞ!!」
それに分かったこともある。この魔石を使えば装備を強化できるという事だ。これを繰り返せばレベルも上がるし装備も強くなる。これはもう1階層を周回するしかないのでは? そう考え大きく笑みを浮かべたがある事実に気づく。
「あ、でも換金できる魔石……」
空はもう茜色から少しずつ夜の帳がおり始めている。スコは当然金なんてない。換金できそうな魔石もないのだ。
「や、やべ。帰る途中にモンスター出来るだけ倒そさないと!」
そうしてまた慌ててスコは走り始めたのだった。
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