第6話 カタパーン迷宮へ
「さて、とりあえず迷宮潜るかな」
スコは金がない。そう金がないのだ。ここがどういう場所なのか何となく理解はしてきたスコだがこれだけは分かる。どこへ行こうと絶対に金は必要だと言う事だ。ならば最低限食事代をまずは稼ぐ。幸いヒントはハイデルンが教えてくれていた。
迷宮のモンスターを倒して魔石を手に入れる。そして売る。
モンスターがどの程度の強さは不明だ。だがここへ来る前に戦った小鬼程度の強さであれば十分に戦えるとスコは確信している。それにレベルアップという謎の恩恵が、ある事がスコを戦いへ導く結果に至る一因にもなっている。ゲーム的に考えるならばレベルが上がれば強くはなる。当たり前の事実だがこれはこの場所で生きていくにはアドバンテージになるからだ。
「とりあえず、迷宮の入り口まで行ってみよ」
マゴノテを肩に担ぎ軽い足取りでハイデルンが指さした方向へ歩き始めた。そうこれはスコの冒険の第一歩なのだ!
「おい! 兄ちゃん! あぶねぇなッ! その枝を下ろせ!!!」
「ひぃ! ごめんなさい!」
確かに肩に担げば人に当たる。当たり前の話である。スコは反省し大人しく自分の相棒を杖のようにして地面を叩くように歩き出した。周囲を見るがやはりどこを見てもテントばかりだ。木造の建築はどこにもない。露店もあるが当然テントだし、出店のように出ている食べ物も殆ど見たことない果物と芋を蒸かした物だけしかない。店に出ている商人も先ほどあったハイデルンのように鎧に身を包んでいる者ばかりだ。というか――。
「俺……浮いてるかな」
そうずっと視線を感じる。不審者を見る視線ではない。どちらかというと――。
「おい! そこの裸の若造!」
前からこちらに指を指して叫んでいる大男がいた。スコは必死に祈った。どうか俺の事ではありませんようにと。自分は服を着ています、裸ではありませんと。しかしその祈りは届かなった。鎧を着こんだ大男がゆっくりとした歩みで指を指しながらこちらに接近してきているからである。
「お前だ。お前! そんな貧相な成りで歩いて人にぶつかって死んだらどうする!?」
「あ、あのですね。俺は――」
「鎧を着ていない状態での人体接触事故は鎧を着ていない方に非がある事になる。無事生き残ったとしても治療費だって出ないんだぞ!」
スコの目の前まで歩いてきた大男は鼻息を荒くしてスコの前に止まった。
「お前、
「いや、それが無くなったっていうか、消えたっていうか、持ってないっていうか」
「なんじゃそりゃ。
そういって皮手袋を嵌めた掌をこちらに出してくる。
「え? プレート?」
「はぁそりゃそうか。お前さん見たところ随分若いな」
「え、ええ。一応18です」
そうスコは答えると男は自身の頭をゴシゴシと掻きながら大きくため息をつく。
「そりゃ迷宮は国をあげて攻略を推奨しておるから
「いや、これしかないですね」
そういってスコは自分の相棒であるマゴノテを見せた。そしてそれを見て男はまたため息をつく。
「武器はそれでもええが。肝心の防具がないのがな……あああもう面倒だ! これを持ってけ」
そういうと男は腰にぶら下げていた丸い木の盾をスコに差し出した。恐る恐るスコはそれを受け取って手元で見てみる。少し傷だらけの木製の盾であり、裏には何かの皮で持ち手が付いているようだ。
「え、いいんですか?」
「構わん。だが1階層より先は行くなよ? あの辺であれば、まだモンスターは単独行動しかしておらん。しっかりと盾を構えてその棒で攻撃するんだ。それで倒せる。それを繰り返して魔石を溜めて防具を買え。いいな!」
「は、はい……」
そういうと嵐のように男は去っていった。いったい何だったのだろうか。少し茫然としつつもスコは気を取り直して迷宮がある方向へまた足を進めた。あの謎の親切男とのエンカウントした場所から僅かな距離で目的に着いた。
「でっか……琵琶湖くらいないかな?」
目の前にあるのは巨大な穴だ。それが遥か下まで穴が開いている。完全な断崖絶壁になっているわけではなく穴の壁周辺がまるで巨大な蟻地獄のように少しずつ下へ続いているようだ。周囲を見るといくつか門のような場所がありそこからこの穴に、降りられるようになっているようだ。よく見れば迷宮へ入る人の殆ど全員が同じ装備をしている。
「もっとこう魔法使い、戦士、盗賊とかそういうテンプレのイメージだったんだけど違うんだな」
スコはとりあえず色々な人が入っていく門のような場所を目指して歩き始める。そうしてよく見ると色々な発見があった。まず、ずっとスコが金属の鎧だと思っていた装備だが実際は少し違っているようだった。映画とかで見るようなフルプレートのアーマーではなく細かい金属の板を身体に巻き付けているようで歩くとその金属板がカタカタとぶつかっている音が聞こえる。
また全員が鎧を装備しているわけではなく人によってはその金属板が少ない人もいるのだ。肩と心臓部分だけに金属板がついている人、足元と腕だけにある人結構様々だ。ただ共通して全員同じ金属の棒を持っている。そしてそんな人たち、
「入っていいのか? うーん。一応聞くか……あの、1人なんですが俺も入って大丈夫ですか?」
スコはとりあえず近くにいた人へ聞いてみる事にした。後で怒られるのを避けるためである。
「ん。あ、君さっきオセッカさんに絡まれてた人か」
「オセッカ?」
「さっきその盾を貰っただろ? 彼はオセッカ・イーヤンっていう3本線の
そう笑う組合員の人にスコは苦笑いをした。だが、先ほどの盾をくれた親切な人の名前を知れたのは収穫だったと考える。後でお礼を言うためだ。
「初めて入るので色々聞きてもいいですか?」
「ああ。いいよ。とりあえずあれから説明しよう。まずここを通った先に昇降機がある。それで現在1階層まで移動が可能だ。ほら見えるかい?」
そういって組合員の指を指す方を見る。
頑丈に作られた昇降機が迷宮の穴に対して至る所に設置されている。昇降機の近くまで行って下を見下ろしその高さにスコは驚愕した。
(え? 1階層ってここから1mくらい下なの?)
浅い。思ったより浅い。確かに1mは危険な高さだ。でもゲームなどでやるダンジョンとかをイメージすると1階層って結構広いと思っていたからだ。よく見ると広いのは間違いない、しかし遠くから見ると本当に馬鹿みたいにデカい階段のようになっており少しずつ下へ降りられるようになっているみたいであった。
「これ皆さんどこまで進んでいるんですか?」
「ほら、あそこ見えるかな。煙が上っているだろう」
再度指を指された場所を見ている。すると確かに煙のようなものが立ち上っていた。
「あそこが現在の最前線、34階層だ。ちょうど前線を攻略している3本線の
(ここからだと30~40mくらい下の方だろうか。思ったより近い)
そんな疑問をスコは考えていた。正直走れば数日で行けそうな距離である。
「ちなみにあの34層へ行くのにどれくらいかかったんですか?」
「ああ、ちょうど出発したのが
「……あの、食料とかどうしてるんですか?」
「もちろん持ち込みだよ。幸い水は迷宮内で取れるから何とかなっている。食料も日持ちする芋を大量に持って行っているからね。荷物運び専用のポーターを10人雇って行動しているから食料だって大丈夫さ。あとは食べられる果実がこの迷宮だと取れるからそれを取って食べたりしているよ」
「そう、ですか。ちなみに3本線ってなんですか?」
スコは話を変える事にした。思ったより遅くないですか、という言葉が喉から出そうだったが前線で戦う彼らの話をする組合員の人の顔があまりにも誇らしげでとてもじゃないが言えなかったのだ。
「迷宮を踏破した階層によって
おおよそ30代程度と思われる組合員が感傷に浸ってそう言っている。やはり遅くないだろうか。あの煙が上がっている場所が34階層だとすると、どう見てもここの迷宮はさらに下まで続いている。絶対100階層以上あるとスコは思った。
「思ったより大変なんですね。俺みたいな初心者からするともう少し早く行けそうな気もしますけど、やっぱりそううまくいかないんですかね?」
「はは。襲ってくるモンスターの数もそうだけど、彼らは各階層へ移動するための足場を設営しながら進んでいるからね。君もわかるだろうけど命がけの作業だ。それをモンスターにいつ襲われるか分からない恐怖と戦いながら進めているんだもん。本当にすごいよ」
なるほど、下に降りる足場を作りながら進んでいるから遅いのか。そう考えると40日くらいであそこまで行ったけど、恐らくあそこからが本番何だろう。
「じゃ後から進む
「そうだよ! 最近は技術の進歩で攻略速度も上がっているからね。だから以前だと1つの階層をクリアするのに長いと3年とか掛かっていたけど、今は1年かけないで下の階層に行けるようになってきているからね」
そう興奮気味に説明している組合員の人に話を合わせるように会話をしながら聞いた情報を整理していく。どの程度モンスターが出現するか分からないけど、迷宮っていうくらいだしやっぱり一筋縄ではいかなそうだと思った。
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