第5話 迷宮都市アタ

「へぇここがアタって街なんですね。なんていうか……想像していた街と違いますね」

「そうですか? 私も行商人として各地を巡ったけど似たような街しかないと思っていたけど、コウエンは違うんですかね」

「へぇ……そうなんですね」


 スコの想像していた街は密集したたくさんの建物、通りにはいくつもの露店が並んでおり、何となく海外のヨーロッパっぽいのかなと想像していた。なんせ迷宮都市なのだ。そりゃ想像するだろう?

 だが実際はどうか。少しだけ高い木の柵が地平線の向こうまで進んでいる。鋭い木の杭が外側に突き出しているので外に出るモンスター対策の一環なのかもしれない。それはいい。問題は都市の方だ。




「……テントしかないんですね?」

「え? いや、普通の民家ですよ」



 想像していた石造りの家も、レンガとかの建物も、もしくは木造の建物でもいい。そんなものは何1つない。見渡す限り全部テントだ。円錐の形をした変わったテントでそれが遥か先まで続いている。形はほぼ一緒で色と装飾くらいしか違いがない。


「2階だけての建物とか石造りの家とかないんですかね?」

「そんな恐ろしい場所に住む人なんていませんよ。2階建てとか、下手したら階段から落ち

「あぁ――確かに骨折した事ありますね」


 懐かしい思い出だ。調子にのって3段飛ばしで飛び降りたら足を骨折した苦い思いでをスコは思い出している。だがそのスコの言葉にハイデルンは驚愕の顔でスコを見た。


「驚きましたね。骨折で済んだのですか?」

「ええ。運がよかったと思います」

「そのようですね。普通なら即死ですよ。さて、スコさんはコウエンの時同様に迷宮へ潜られるのですよね?」


 さも当然のように迷宮に潜るように提案されスコは驚いた。


「ハイデルンさん。よかったら迷宮についてもう少し教えて貰えませんか?」

「ああ。そういえばスコさんは現在記憶障害が起きているんでしたね。いいでしょう。まずこの迷宮都市アタには大陸でも珍しい2つの迷宮を抱えている都市です。1つはカタパーン迷宮。現在34層まで攻略されています。しかし未だ半分も進んでいません。それだけ深く厳しい迷宮なのです。もう1つはアターマガンの墳墓。ここはアタから少し離れた場所にありますが、非常に困難な迷宮のためこちらは未だ数層までしか攻略が進んでいないのです」

「へぇなんか色々あるんですね。でもせっかく街? を作った所に迷宮が出来るなんてついてないですね」

「いや、逆ですよ」


 広い大通りをゆっくりと馬車の横を歩きテントの群れを進んでいく。通りの一番奥にひと際大きなテントが見えた来た。


「え、逆って?」

「迷宮がある場所に都市を作ったんですよ。ここの迷宮を攻略するためにね。さあここです」

「ここは……?」



 他のテントと違い大きなテントだ。入口の布が開かれており、十数人程詰めているのが見える。そこにいる人々は皆が厳重な鎧に身を包み長い金属の棒のような物を持っていた。


「ここはカタパーン攻略者ストラテジー組合東支部です。東西南北、迷宮を囲むようにここと同じような建物があります。ここは迷宮で手に入れた魔石を売買できるんです」


 

 テントの中には10本以上の支柱が立っておりそれでこの大きな屋根を支えているようだ。屋根には太い紐のような物が支柱から伸びておりその天井に使われている布が落ちないように支えているようだ。中には受付のような台が複数あるのだが、妙に間隔が空いている。これだけ広い空間なのに受付が5か所しかない。



「妙に間隔が空いてるんですね」

「当たり前です。万が一にでも人とぶつかっては大怪我をするかもしれません。だからできるだけ人と肩がぶつからないよう皆慎重に列に並んでいるんです」


 そう言われてよく見ると確かに、妙に周囲を警戒しながら列に並んでいるようだ。さらに歩くのもかなり遅い。恐らく人と当たった時に怪我しないようにお互い細心の注意をしているという事なのだろう。その警戒具合にスコは感心する。スコ自身もかつて走っている人と肩がぶつかった時に肩の骨が折れ、脱臼までするというミラクルコンボを味わった事があるのだ。



「それは、確かに注意が必要ですね」

「ええ。その通りです。さて、スコさん。あちらを見て下さい」


 ハイデルンの指さす方向を見る。この組合から進んだ少し先の方だ。


「行けば分かると思いますが巨大な穴が開いております。そこが迷宮の入り口です。潜る際はあちらに向かってください。ただスコさんは装備が一切ないようですので、まず装備を整える事をお勧めします。最低でも金属の鎧、盾、棒を用意する事をお勧めします」

「あの……ずっと疑問だったんですが皆さん棒を持っているんですね」


 そうここに来る道中もスコは気になっていたのだが、組合のテントの中を見てさらに確信した。よくある剣とか槍とかを持っている人がいないのだ。それどころか全員が全身金属の鎧に身を包み長い棒を持っている。


「それは迷宮のモンスターの攻撃を一撃でもまともに受ければ死んでしまうからです。そのため攻撃を受ける盾と相手を突く事が出来る棒を必要としています」

「――あの剣とかそういうのは?」


 スコがそういうとハイデルンは不思議そうな顔で言った。


「そりゃもし剣で指を切ったら?」

「……なるほど。ちなみに刃物って誰も使わないんですか?」

「まず刃物を鍛える職人がいません。造る過程で死ぬ可能性がありますからね。ただ、迷宮から出る遺物レリックにそういった物は出てきます。ただ誰も怖くて使いたがらないですが……」

「ちなみに料理とかどうするんですか?」

「どうとは? 普通に調理してますよ?」


 この口ぶりだと包丁は使っていないのだろう。ならどうやって調理しているのだろうかとスコは考える。でもまぁちゃんと食べられればなんでも良いかとすぐに考えた。



「さて、私の商店はここ東エリアの6番通りにあります。もし何かご入用があればいつでもお越しください。どうか貴方の力が迷宮攻略を進める一滴となる事を祈っています」

「はい。色々とありがとうございました!」







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