第9話 魔石の使い方
ゴーン! ゴーン!
鈍い鐘の音が聞こえスコは目を覚ました。硬い床に眠ったため妙に身体が痛い。ゆっくり身体を動かし簡単なストレッチをしてテントの入り口を捲って外に出た。そのまま近くにある井戸へ行き慣れない手つきで水を汲み顔を洗って水を飲む。泊ったテントに戻ってマゴノテを回収しそのまま宿の受付に行ってじいさんに割符を渡して外に出た。
(でも5体モンスター倒しただけで一泊出来るのはかなり楽に稼げるそうだ)
そうモンスターを倒した時に出る魔石。昨日のギリギリで倒しただけでこれくらい稼げるのなら、昨日半日で集めたあの魔石は結構な価値があったはずだとスコは自分の手に持ったマゴノテを見て考える。だからこそ魔石の詳しい話を聞く必要があるため、自分の事情をある程度理解してくれているハイデルンに会おうと考えた。
4番通りに出ると既に出店が営業し始め道を往来する人も増えてきている。スコは人とぶつからないように注意しながらハイデルンのいる6番通りを目指して歩き始めた。途中残りの緑1を使って芋購入。今度は出来たてのため随分温かい芋を食い歩きしながら6番通りまで辿り着いた。
「さて、どこかな」
ここにいるという話しか聞いていないためさらに詳しい場所は分からない。それに昨日の宿の一件を考えるとテントの間の道の奥という可能性まで出てきた次第だ。出来れば早めに話を聞いて迷宮に潜ってレベル上げをしたいと考えているスコは6番通りの店をゆっくり見ながら歩く。
「……あ! いたッ! ハイデルンさん!」
少し大柄で髪を編み込んだ独特の髪型をしている男、ハイデルンを見つけスコは声をかけた。その声に気づきハイデルンはスコの方を見て少し驚いた顔をしたがすぐに笑顔を見せてくれた。
「昨日ぶりですね。さっそく店に来てくれたんですか?」
「今日の夜にここで買い物するので、ちょっと教えてほしいことがありまして……」
流石のスコも無償で親切にしてもらえるとは考えていない。だから後で買い物には来るという事を約束して少し時間を貰えないか相談をした。そんなスコの様子を見て少し思案した様子のハイデルンだったがすぐに「わかりました」と答えてくれた。
ハイデルンのテントの中にはテーブルが並んでおりその上に色々な物がおいてある。籠の中に待ちでよく見る金属の棒が立てかけており、他の人も付けている金属のプレートのような板が何枚も置いてある。その横には厚手のマントやグローブ、ブーツなどの装備品も売っている。
「色々売ってますね」
「ええ。全部消耗品ですからね。おおよそ1週間程度で大体全部売れますよ。そしてまた少し離れた場所にあるアプルコという街に行って仕入れをするという感じです。それで何を聞きたいのですか?」
「はい。魔石についてです。昨日迷宮の1階層に潜ってモンスターを倒して魔石を手に入れたのですがくっつけたら1つになったんです。あれはどういう現象なんでしょうか」
スコがそう質問を投げるとハイデルンは少し考えてから話し始めた。
「まだ記憶が戻らないのですね。魔石での適応を行えば記憶も戻ると思ったのですが、確かにその知識もないと厳しいですよね。では説明しましょう。魔石とはモンスターを倒すと手に入る小さな石です。それはわかりますね?」
「はい、緑色の魔石を手に入れました」
スコがそういうとハイデルンは頷きながら説明を続けた。
「魔石とはモンスターの身体から手に入るものではなく、厳密にはモンスターが死ぬときにその力の結晶として作られる石のことを指します。この魔石はモンスターの力が籠められているのではなく、純粋なエネルギーだと考えて下さい。この世界の人々はそうやって手に入れた魔石を利用して生活をしています。ではまずスコさんの質問に答えましょう。魔石ですが同じ色の魔石同士は近づけると共鳴し融合します。そうする事によってより強いエネルギーを宿した魔石が作られるのです。こちらをご覧ください」
そういって店の奥から取り出した石をハイデルンはそれをスコに見せた。それは今までみたどの魔石よりもきれいな緑色の魔石だった。
「これは高濃度の翡翠魔石です。これを売ればこの都市で言う所の赤5くらいの値段になります」
まだこの世界の金銭感覚がいまいち理解できないため赤5と言われてもパッとしないスコは違う例えで聞いてみた。
「赤5のお金があれば例えばこの店の商品はどのくらい買えますか?」
「全部買ってもおつりがありますよ。この都市なら高級宿に1ヶ月は宿泊できますからね。さて、恐らくスコさんが忘れているのはここから先の話でしょう」
そういうと先ほどの綺麗な魔石をしまい、今度は薄い色の魔石を3つ取り出した。ちょうど昨日スコが倒したモンスターも同じくらいの色の魔石を落としていたのを思い出す。
「魔石は金銭に変える以外利用方法が2つあります。まず1つは”
そういうとハイデルンは薄い色の魔石を取り出し近くにあった金属のプレートに叩きつけるように魔石をプレートに当てた。
「あッ!」
以前スコのマゴノテと同じように緑色の光が発光しまるで吸収されるように消えていった。
「これが”強化”と呼ばれる現象です。魔石を与えた物体の本来持つ力を高める事が出来ます。単純に強度を上げるとかではなくその物体の性質事態を向上させることが出来るんです」
スコはそれを見て自分の手の中にあるマゴノテを強く握る。つまりお金に変えるだけじゃなくやはり武器や防具なんかを強くすることもできるという事だ。
「そしてもう1つ。それが”適応化”と呼ばれるものです」
そういうとハイデルンはもう1つ魔石を取り出しそれを自分の皮膚に押し付ける力を込めている。それを目を見開いてスコは見ていると次第に魔石が発光し先ほどと同じように身体に吸収されていったのだ。
「そ、それはどういう――」
「私もどういう原理なのか詳しくは知らないのですが、魔石を体内に吸収する事によっていくつか恩恵を得る事ができるんです」
「……恩恵ですか?」
「はい。適応化が進むと
「そ、それは……すごいですね。それは皆さんやっているのですか?」
一瞬スコは驚きのあまり、思わず一歩後ろに下がってしまう。
「はい。そのように教えられて育っている人ばかりですからね。ただ定期的に魔石を摂取しないと徐々に効果が弱まってしまいますので、こうやって迷宮に潜らない一般人向けに濃度の低い魔石も一定の需要があるのです。逆に
その言葉を聞いてスコは昨日の光景を思い出す。そういえば迷宮で見かけた人よりも夜に地上へ戻る人の方が少なかった。つまり数日かけて迷宮を攻略するため戻る人が少なかったのだと気づいた。
「さて、こんなものでしょうかね。他に質問はりますか?」
「……いえ、沢山教えてくださってありがとうございました。また夜に買い物にきます!」
そういってスコはその場から何故か逃げるように立ち去っていった。
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