note.49 では、音楽のない異世界では、何とたとえるのだろうか――――?
MY INTRODUCTION はキーロイのラボ、白い部屋で合わせられた曲だ。
イデオもキングもお互いを良く知らない、限られた状況の中で、奇跡的に昇華した歌。売り言葉に買い言葉のセッションの中で生まれた均衡。
それが再度、構築されてゆく。
入りはあのままのリズムをイデオがくれるので、MCを入れてもリズムループを経てギターリフごとぶちこんだ。
さあ 始めようぜ スペクタクルなフェスティバル
ようこそ 一緒に踊ろうよ Wowow Wowow Wowow
朝焼けの空 高く
あの日のオリジン 歌い続けて Shout for the rising sun!
Keep on shouting for the rising sun and call the future!
キングはイデオのスティックの先に輝く未来が見えていた。
己がどのようなギターソロを入れても待ってくれるし、拾ってくれる。
どんだけシャウトをして熱狂しても、その温度で間奏を入れてくれる。
熱いのにやさしいその一打を、キングはいつも期待してしまう。
ここで形勢逆転! 逆境ははるか彼方に
曇天よりも速く 突っ走れ go go go go!!!!
迷わず進めよ! 夢中で景色見えなくても
透かして見れば 照らされた世界は美しい
I 'll live here! アメノチ ハレ!
それだけでもこれまでを考えたら泣きたいほど恵まれてると思うのに、ベースが入るという。完璧な合わせのドラムに、新品ピカピカのベースの音。そして、何者にもなれなかったキングのギターと声が合わさる。
その時、何が生まれるのだろう。
世界中とハイタッチして sparkするんだね想いがさ
もっとpopにremixer 届けたい 飛び出したい
世界中とタップダンスして 生まれ変わった自分いて
そうだpopにremixer 確かめたかった宝箱の中
飛び込もうよ 狂騒の渦の中へ
ハイテンションな曲を続けて送る。
届け!! 届け!! と祈りながら、汗を
会場は急増の箱でも来てくれた若い魚人たちを中心に熱狂した。
魚人特有のヒレのついた足がビタンビタンとフロアを跳ねまわり、大きめの頭と体が縦に揺れる。その度にフロアの天井から
「ありがとうみんな!!!! ありがとう、次はみんなの
うまく言葉に出来なくて
きみの後ろ髪 諦めた坂道
次に会ったら確かめるんだ
瞳の奥 光る正体は 僕の胸とおんなじかな
思い出せないこともある
御託を並べた 浜辺の貝殻
次に会ったら見つめ合って
瞳の奥 光る僕の声 君の指 重なり合う
追いかけたら夜 追いつけなくて夜
求めた頬の上 確かに感じる この歌を
届けたい あの時 間に合わなかった
思い出せない サンセットその胸に
届けたい この唇に Yeah
思い出せないのは 手をひっこめた
俺の苦い サンセット もう一度
切ない、達しきれなかった地平線の歌。
キングはその海の向こう側に、自分の音楽の始まりを思い浮かべていた。
きっとこの先アーリェクの人も、音楽の始まりを海の上に求めるだろうと、そう思いながら、間奏で目を閉じた。
明日の朝に始まる、芽生えた異世界の音楽を
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白い部屋にたったひとつ
そのわずかな隙間をとんとん、と指先で
新たに製造させたまったく同じ容姿の子供の姿で、表情もなく悪態を
「まーったく、ニゼアールは使えんのう。脳筋脳筋。ポータルは壊しそうになるわ、追い出したと言ったイデオの行方は知れず……まーったく、ニゼアールの脳筋め。どうしてくれよう」
悩める中間管理職は、椅子の背もたれに小さな上体をまかせてくるりと回転させた。白いケープがふわりと舞い上がる。
「イデオは抜け目のない奴じゃ……【
『キーロイ様、ニゼアールがお役に立てず、大変申し訳ございません。次はどのようにいたしましょう』
たらたらと愚痴の止まらないキーロイの言葉を
「カラス・ヴィーナス、今必要なことは何と心得る?」
『はい、キーロイ様。もしエール・ヴィース……イデオが音楽を持ち込み、世界の均衡を脅かすのであれば、まず音楽の大本を取り除くことが必要かと存じます』
「それはそうなのじゃが、イデオが連れてきた音楽を
『ではそのようにいたしましょう』
「いや、それが難しい。萩原旭鳴は市井に紛れておる。それにもし見つけ出せたとしても、今回殺し損ねたイデオが側にいるだろう。なので先にイデオの処分を急ぎたかった……というのにニゼアールの奴め……こちらの意図を一つとして
堂々巡りに愚痴。指先で苛立ちを表す。
カラス・ヴィーナスと呼ばれた女は、ふむ、と鼻声を漏らした。
『キーロイ様、お許しいただけるのでしたら――天使族をあげて、イデオを世界から捜索致しましょうか』
「ローラー作戦か? どれほどの人員が必要か? 時間はどれだけかかる?」
キーロイは端から期待していないとばかりに、投げやりな質問を浴びせた。
『エール・ヴィースは死んでしまったとはいえ、私から生まれた可愛い我が子でございます。どの天使も私の共感覚で世界のどこに存在するのか把握ができます』
「なんと!? それを早く言わんかっ!」
『申し訳ございません。……しかし、エール・ヴィースの体は一度死に、私の授けた翼を失い、つながりが切れております。それを
「それがどのくらいかかると? カラス・ヴィーナス――お主だけで出来るものなのか?」
『私は
「うーむ、よくわからんがお前さんが出来るというなら出来るのであろうな。して、発見したその後はどうするつもりじゃ?」
『
「よかろう! イデオを捕まえられるならそれに越したことは無い。なるべく他の住民達には害を与えぬようにな!」
『仰せの通りに』
狭苦しいデスクから、女の気配が消えた。
キーロイはくるりと椅子を回転させ、ケープを翻させる。
口元は動かないのに、当初とは打って変わってご機嫌そうに笑っていた。
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港町の早朝は、威勢の良い掛け声が薄い窓ガラスを越えてくる。むず
その声は昨日までの朝には無かったものだ。
(何時だ……まだ全然起きる時間でもねえじゃねえか……クソ、目が覚めちまったぜ)
キングがむくりと上体を起こす。
寝起きは意外と良い方だ。目をこする仕草はあるが、瞳孔の奥は既に陽光を取り入れられる態勢が整っている。
だが、三人の道連れはまだ夢の中だ。カーテンを開けるような野暮なことはしない。
昨晩の宴の後、一部屋に二つしかないベッドは四人の旅人では割り切れなかった。二対二で大人しく一つのベッドに収まるような人選でもない。
そんなわけで仁義なき話し合いの結果、連戦でお疲れのイデオはベッドを獲得。
疲れをそれほど感じることのないマックスは床へ。
キングとリッチーでどちらが疲れているか舌戦――後、リッチーがベッドを獲得した。
マックスは「お父さんと並んで寝られる」と喜んでいたが、ベッドの包み込まれるようなやわらかさが恋しかったのがキングの正直なところである。
(むう……肩と腰がギシギシいうな……いつかは人数分のベッドで寝られるように、金を稼げるようにならねえと、身が持たん)
そう誓いながら、キングは寝こけるマックスの横で肩を回し、首を傾けた。これしきの動きでパキポキと骨が応えるのは、一晩でなかなかの事態である。
しかし自然と顔がにやけてしまうのは、昨日の盛況を思い出すからだ。
(まだ音楽が何かってのはわかってくれなくて、べつにいい。その時に届いた気持ち、共有した感情……そこに音楽ってあると俺は思うから。これからも地道に歌っていくしかねえな! こうなったら世界中で歌ってやるぜ!)
今は静かに眠る相棒のギターケースに目を遣って、キングは早すぎる身支度を始めた。
音楽のある生活をひとは、LA DOLCE VITA とたとえるかもしれない。
もしくはrock 'n' roll とたとえるかもしれない。
では、音楽のない異世界では、何とたとえるのだろうか――――?
早朝の漁を終えたヒカレの木製の船に、キング、リッチー、イデオ、マックスの四人は乗り込んだ。
帆に潮風を満帆に受けながら、近づいてくるのはマーキュリー国王都がある大陸。
青く緩やかな山々を背景に、白を基調とした街並み。最初は爪の先より小さく見えたものだが、ぐんぐんとその街の大きさが
そこが次の目的地である、スーベランダンの街であった。
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