第11話 またね
急に亡くなった妻の通夜が終わり、先ほどまで妻の遺体の前で突然の死去についていけず、何をどうしたらよいかわからず、ぼーっと妻を眺めて過ごしていたはずだが、今の俺は、見慣れたリビングではなく、夜と夕日の光が混じり、周りには星がキラキラ光る景色を眺める丘のようなところでポツンと椅子に座っていた……
「……夢か?」
俺が混乱していると、椅子が4人掛けになり、娘の「みう」とお義父さん、お義母さんが横に現れる。
「あれ?お父さん?それに、おばあちゃんにおじいちゃん?」
「あら?みう。それにみんなも。もう朝になった……訳ではなさそうね。ここはどこかしら?見慣れない場所ね」
「そうじゃな……ここはどこなんだろうな」
みんなで状況の把握をしていると、いきなり「ピカッ!」と閃光が走り、あまりの眩しさに目を閉じる……
映像を見終わった私の前に現れた天の使いによって、光に包まれた私は、気がつくと旦那たちが目の前にいた。
「え?会うって言ったけど、こんな急になの?もっと一時的に別の場所に移って、心の準備をしてからとかじゃないのね」
私が思ったことを口にしていると旦那たちに聞こえたようで「……茜?」と目を開けて私の方を向く。
「「茜!」」
「「……」」
旦那とお父さんは声を上げて驚いて、みうと母さんは私を確認した瞬間に駆け寄ってきて私を抱きしめる。
「茜!ああ……これは夢かしら……夢でもいいわ……もう一度あなたに会えることができたんだから」
「お母さん!お母さん!お母さん!……会いたかったぁ」
ああ……ダメだなぁ……泣かないって決めていたのになぁ……
「母さん……みう……私もすごく会いたかった!」
私は、2人を抱きしめ返す。
「ふふふ。ちょっと苦しいわ」
「お母さん!苦しい!」
「ごめん!」
「ふふふ!茜らしいわ」
「そうだね。ちょっと抜けてるくらいがお母さんらしい」
私たちが3人で楽しく会話をしていると、旦那と父さんが私たちのところへとやってくる。
「あかねェェェェェェェ!!」
父さんは、大号泣しながら私を抱きしめる。
ああ、父さんの匂いだ。昔から何かあった後に父さんは抱きしめて慰めてくれたなぁ。
「父さんごめんね」
私と父さんはしばらく抱きしめ合い、父さんが落ち着いたところで離れる。
「茜……これは夢なのか?」
冷静な旦那は私の手を握って、私に会えているこの状況について聞いてくる。
ふふふ…旦那は嬉しいことがあると私の手を握るのよね。私に会えて嬉しかったのか、握る手の力が強い。
「そうね。どこから説明したものかしら……」
私の体験した不思議なことをどう説明したらいいかわからず、結局これまでにあった汽車でのことや映画館でのこと、そしてみんな会えているこの状況はお別れをするためのものということを話した。
「そうなのね……茜に会えるのはこれが最期……」
「「「……」」」
みんな話を聞いて、理解しようとしているが、なかなか受け入れられないようで黙ったまま時間だけが過ぎていく。
「茜。あなたにもう一度だけ会えるなら伝えたいことがあったの」
「うん」
「私をあなたのお母さんにしてくれてありがとう……わたしはあなたのお母さんになれてとっても幸せだったわ……無事に産まれてくれて、無事に大きくなってくれて、可愛い孫の顔を見せてくれたり本当にありが、つっ!とう」
「母さん……こっちこそだよ!わたしは母さんの娘に産まれることができてとっても幸せだったよ!本当にありがとね!」
母さんと私は抱きしめ合う。
「あかねェェェェェェェ!父さんもお前に会えたら言いたいことがあるんだ!結婚式の時はお前よりも目立ってしまってごめんな」
「アハハハ!それはもういいって。私も父さんに言いたいことがあるの!父さんは私のことになると暴走する癖があったけど、とっても嬉しかったよ!ありがとね!」
「ハハハ……お前は俺の命よりも大切だからな!俺をお前の父にしてくれてありがとな」
父さんは言い終わると私を力だよな抱きしめる。 ああ、やっぱり父さんの腕の中は落ち着くなぁ
「……茜」
「あなた……よかったもう一度、会えたら言いたいことがあったの……」
「なんだ?」
「洗濯物はちゃんと脱衣所で脱いで洗濯機に入れなさい!それから……」
私は、日頃思っていたことを旦那に伝える。
「……ああ!もう!あなたを残した天国に行くのが1番不安よ!わかった!これからは私はいないんだからちゃんとしてね!」
「……努力する」
「はっきりしなさいよね!全く!でも、あなたはだらしないところもあったけど、それ以上に愛情深いところもある素敵な男性。私はあなたと結婚できて本当によかったわ!ありがとう」
「……茜。俺の方こそだぞ。こんな俺と結婚してくれてありがとう。俺は、お前と結婚することができて世界一幸せ者だ!」
「あなた……」
私は、旦那と唇を重ねる。
「おいおい。親のいる前で大胆だな」
「そうね。見せつけてくれるわね」
「「アハハハ」」
私と旦那は笑いでごまかす。
私と旦那が両親にからかわれて笑っていると
「お母さん……」
みうが、足に抱きつく。
「みう……」
私は、みうを抱き抱える。
「大きくなったわね。それにさすが私と旦那の子供ね。顔が整っていて可愛いわ!保育園では男の子からモテるんじゃない?」
「うん!この前ね!大くんに将来結婚しようって言われたの!その前は別の子にもおんなじ事を言われたよ!」
「ふふふふふ…そうなのね!凄いじゃない!モテモテね!みうは、優しくて家事もできるから、いいお嫁さんになるわよ!」
「うん!私ね!お母さんのような人になるの!」
「ふふふ…嬉しいな!みうがどんな大人になるか楽しみだな!きっと制服とか着物とか似合うんだろうな」
「うん……」
みうは急に黙ってしまう。
「みう?」
「お母さん…行かないでよ!みうが大きくなるまでそばにいてよ!」
「……ごめんね!」
「お母さん!」
「みう!」
お互いに強く抱きしめ合う。
「ごめんね!これからもずっと一緒にいるよって約束したのに!」
「ううん!みうね!お母さんに会うことができて離れたくないって思ってわがまま言っちゃった。ごめんね」
「みう!ああ!本当にいい子!みうのお母さんになれて、本当に幸せ!大好き!」
「みうも!みうも!お母さん大好きだよ!」
みうと抱きしめあっていると、ピカッ!と光って、天の使いが現れる。
「もう伝えることはできたかな?」
「はい!みんなに会えて伝えることができて思い残すことはないと言ったら嘘になりますが、なんかスッキリしました!ありがとうございます!」
「うむ。では、そろそろ時間だ」
「わかりました」
私は、みんなに向き直る。
私が向き直るとみんな笑っていた。
「そろそろ時間みたい。最期にみんなに言いたいことがあるの!大好きだよ!またね!」
「ええ!わたしも大好きよ!先に行って待っててね!私たちももう少ししたらそっちへ行くから」
「うんうん。わしらも70だしな!後10何年したらそっちに行くことになるだろうな!その時は、3人でいろんな話をしような!」
「茜!ちゃんとするから心配はするな。みうのことも任せろ」
「お父さんのことはみうに任せて!今日からみうがお母さんになるから心配しないでね!それと、大好きだよ!」
「ふふふ……みんな一斉に言ってるから何言ってるかわからないよ……大好き」
幸せだったな……
私は、天の使いによって暖かい光に包まれる……
皆さん。こんにちわ。案内人と館長を務めております。佐藤と申します。皆さんは、隣にいる人、例えば「ご家族」「親友」「恋人」など大切な人が明日も当たり前に存在していると思っていませんか?
「ご両親」のいる当たり前の日常、「恋人」「親友」がいる当たり前の日常。
ですが、あなたが当たり前と思って過ごしている日常は、何かがあれば、すぐに壊れてしまうかけがえのない日常です。
どうか1日1日を大切に生きてください。
終わり……
私、案内人と館長を務めます。佐藤と申します。 @ss9
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