記憶に残り続ける斎藤くんの描いたドラえもん

 斎藤くんとは幼稚園から高校まで同じで、仲良くなったり、また疎遠になったりを繰り返した珍しいタイプの友人だった。


 私の斎藤くんとのもっとも古い記憶は小学1年生まで遡る。図工の時間、休み時間の絵を描くことになった私は斎藤くんとブランコで遊んでいる絵を描いた。私は当時年齢の割には比較的絵心がある方だったが所詮は子ども、丸い顔、四角い首、四角い体に四角い四肢が付いたそれは、人というよりレゴブロックを紙に描いたような絵だったのを記憶している。


 絵の中の自身には好きな青い服を着せて、斎藤くんには黄色い服を着せた。今思い出すと、これは斎藤くんがよくよだれを垂らしていたので、そのイメージを反映させたのだと思う。そして、絵の中の私はデフォルトのMiiのようなギザギザの前髪を描き、斎藤くんにはなぜか髪を一切描かず一所懸命に肌色を塗ったのもよく覚えている。おまけに斎藤くんの頭には光のエフェクトも描いて、ハゲ具合を強調までしていた。本人はまったくハゲていないというのに。きっとコロコロコミックか何かの影響でやったことだとは思うが、今思うと私と親、斎藤くん親子、担任で五者面談が始まってもおかしくない。あのときスルーしてくれた斎藤くんには頭が上がらない。


 低学年のときには仲が良かった斎藤くんとは、時が経つにつれ特に理由もなくそれぞれ別のグループで遊ぶようになった。そして再びつるむようになったのは中3のときだった。よだれを垂らしていた斎藤くんもその頃には塾に通うようになり、学年でも成績上位の秀才となっていた。彼は決して明るい性格ではないが、時々ボソッと発する一言が強烈という、いうなれば変わり者タイプ。しかし、思春期真っ盛りということもあり悪目立ちを避けるためか、クラスの中では特別人気者という訳でもなく、私と同じイケてないグループの一人だった。


 中3の冬、席替えにより私の前に斎藤くんがやってきた。当時の私は斎藤くんと同じく成績が良く、課題を解くのが早いため二人して暇を持て余すことがよくあり、先生の似顔絵を描いては見せたりして遊んでいた。


 ある日の数学の時間、課題をいち早く解き終えた斎藤くんが振り返り私の方にノートを差し出してきた。すると彼は先生に怒られないように小さく耳打ちした。

「俺、2秒でドラえもん描けるんだ」

 こいつは一体何を言っているんだ。そう言い返す間も与えず、彼は残像が見えるほどの速さシャーペンで動かす。そして手を止めたと思うと、そこにはドラえもんが描かれていた。

「いやいや、それくらい誰でもできるでしょ」

 軽い嘲笑の後、私も挑戦する。それ、1、2……!しかし、そこに描かれたのはドラえもんではなく、ドラえもんの体を保とうとしている何かでしかなかった。それを見た斎藤くんは私を見つめ得意げにニヤニヤする。何て腹の立つ顔だ。斎藤くんの大きな鼻の穴からフンという自慢げな息が漏れる。何をもってそんな誇れるのか今思えばまったく理解できない。当時の私は敗北を認め「凄いじゃん!」と彼を讃えたが、今思えばまったくもって凄くない。


 その後、高校も斎藤くんとは同じ高校に入ったがクラスが異なり再び疎遠になってしまった。聞くところによると彼はバレー部に入ったそうだった。小学校からずっと野球をやっていたのに。やはり斎藤くんはよく分からない斎藤くんだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

部屋とワイシャツとエッセイ トゥータタボン小河原 @Tootatabon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ