愛の聖体拝領

@grrrrr

愛の聖体拝領

 通り過ぎてゆく・・・・・・キリストの葬列が。出逢いと倦厭の寓意が。「葬式ほど絢爛な出逢いの場所はない」と言ったのは誰だったか。その人物はこうも言った――「『アルンハイムの地所』は、やはり傑作だねえ」


 ああ、葬式とはなんて意味のない! しかし我が妻よ、聞いてくれ! 私はお前と、そこで、悒鬱なそこで、二つの棒切れが十字で交わるそこで、出逢うはずなのである!


 ――「静かにして!」女の叫び声がする。沈淪していたその場所に、その慟哭は嫌でも耳に入るものだ。しかし、その叫び声を聞いて私は満足する。彼女ならこう言うと、彼女がこう言うということを、彼女より後に生きる私は知っているからだ。それは最後の道。それは、汝の通るべき道・・・・・・。


 私は彼女の処へと近づいていく。依然として彼女は泣いている。「静かにして!」「騒がないで!」と、静謐の中で咽び泣いている。

「そんなに泣いては、後始末が大変になってしまいますよ」

「五月蝿い! あたしはもう、もう・・・・・・」

「私の血をお飲みになりますか」

「誰が飲むもんですか! そんな汚らわしい男の血など!」

「安心なさい。私はあなたにむらがる蛭とは違う。勿論、夢魔でもありません。さあ」

「いいえ、あたしは絶対に血なんて飲まないわ!」

「じゃあ、何なら飲むというのです?」

「神よ! あたしは神を飲むの! それがあたしよ!」

「これは、とんだ失礼を」


 私は彼女から離れてゆく。

 すると俄かに、彼女は笑い始めた。

「ああ、あなた・・・いかないで・・・あなた・・・いっちゃいや!」

 そう言いながら、けたたましく笑っている。過去のように。ゲッセマネでの祈りのように。

 私は笑う彼女に振り向いて、努めて穏やかに、こう言った。

「どうやらほんとうに、あなたはパンでもなく、ワインでもなく、神を喰べられたようだ」


 通り過ぎてゆく・・・・・・キリストの葬列が。出逢いと倦厭の寓意が。

 おお、何度目の邂逅か! その晩に、私と妻は結ばれる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛の聖体拝領 @grrrrr

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ