第13話【完結】
全力で走ってはいるが、足元は道ともいえぬ獣道だ。夕暉も陽も、草木や石に何度も足を取られた。群れはふたりと距離が開くたびに歩みを緩め、代わる代わる様子を見に戻ってくる。
シロはあまりにも夕暉の足元にじゃれて纏わりついたので、怒った一頭のメスが首根っこを咥えて運んでいる。
「継承の竜のところへ案内してくれてるんだと勝手に思ってんだけど、多分、合ってるよね」
走りながら夕暉が言った。飛び上がって足元の木の根を避けながら、陽は叫び返す。
「おれもそう思う」
狼たちは明らかに頂上を目指していた。裏道なのか、はたまた狼たちだけの知る道なのか、目立った罠もなく、山の頂はみるみるうちに近づいて来ている。走り始めてから一時間ほどで、果たして一同は大きな洞窟の入口に到着した。
「ありがとう。助かったよ」
肩で息をしながら、夕暉は背後を振り返った。しかし狼たちは洞窟に近づこうとはせず、森との境界に並んで夕暉たちを見つめている。振り向いた夕暉に駆け寄ろうとしたシロを、長が咥えて押しとどめた。シロが哀れげな声で鳴く。
「そっか、君たちの縄張りは、ここまでなんだね」
代わりに歩み寄った夕暉が、彼らの前に片膝を付いた。解放されたシロが喜び勇んで夕暉に纏わりつき、腹を見せて引っくり返る。その白い腹を思い切り撫でてやり、もう一度、夕暉は真摯な口調で長へ礼を述べた。
「連れて来てくれて本当にありがとう。王になれるよう、頑張るよ」
夕暉の視線を受けて、長は真っ直ぐに彼を見つめ返した。頬を摺り寄せ夕暉の唇をひと舐めすると、引っくり返ったシロを促して身を翻す。少し離れた場所で待っていた仲間がそれに続いた。
狼の群れは、そのまま森の中へと姿を消した。
「元気でね」
見えなくなってしまった狼たちに、夕暉が呟く。返答のように遠くで遠吠えがした。彼らが去っていた方を、夕暉は名残惜しそうに見つめた。陽は袖を引いて先を促す。立ち止まっている暇はない。
「行くぞ……おわっ」
ぬっと音もなく洞窟の闇から顔を覗かせた巨大な生き物に、陽は度肝を抜かれて仰け反った。
「わあ、ぬし様だ。逢えないと思ってたのに」
夕暉が弾んだ声を上げた。叫んだと思ったら、歓声を上げながら彼女の頭に飛びついている。
親しい友相手のような気安い夕暉の反応に、陽は戦慄を覚える。王国人にとって、血統の竜は伝説級の尊い存在だ。敬意とともにそれを上回る畏怖があり、気軽に飛びつけるような相手ではない。
こんな時、陽は夕暉と自分との間に大きな隔たりを覚えるのだった。
「あれ、ぬし様がいるってことは、この洞窟は間違いだったのかな」
白竜の鼻面を撫でながら、夕暉は陽を振りかえった。聞かれて陽は首を横に振る。そんなこと陽が知るわけがない。
逢えない筈だった白竜に遭遇できて、夕暉は非常に楽しそうだ。さっきまでシロがいなくなってしょげていたのに、血統の竜との再会の喜びはそれを上回るらしい。
「ほんと? 良いの?」
喉をぐるぐる鳴らした白竜を嬉しそうに見上げて、唐突に夕暉は言った。白竜は瞬きすると、陽たちに背を向けて、洞窟へのしりと戻り始める。その背を躊躇なく追って、夕暉が陽を手招きした。
「おいでって。入って良いんだって」
少し離れて陽は夕暉のあとに続く。白竜が喉を鳴らすたびに、夕暉は律儀に頷いたり何かを語りかけたりしていた。まるで会話が成立しているようにすら見える。
真っ暗だと思っていた洞窟の内部は、不思議なことに月明かりのような優しい灯りで満たされていた。壁際には宝石が山と積まれ、それが光を反射して洞窟の中を一層明るく照らしている。
一切の物音がしない。夕暉たちの足音も呼吸の音すら洞窟の壁に吸い込まれ、内部は静謐に包まれている。厳かさを感じるような、けれどどこか懐かしいような、不思議な静けさだった。
血統の竜は無数の分かれ道を迷いなく進んでゆく。
三十分ほど歩いただろうか。白竜の歩みが不意に止まった。広間のような空間で、天井が見えないほど高い。白竜が何十頭いても狭く感じないほどの広さがあった。ぐるりと見渡すと、左右それぞれに緋毛氈と御簾のような幕がある。
ふと視線を遣った洞窟の最奥、深い闇の中に赤い宝石がふたつギラリと輝いた。地響きのような低い唸り声が、ビリビリと鼓膜を揺さぶる。夕暉と陽は一斉に飛び退った。漆黒が、ゆらりと揺れた。
巨大な冥暗だと思われたそれは、暗夜の色をした竜だった。
「継承の竜だ」
陽が囁く。
宵闇を写し取ったかのような美しい漆黒の鱗と、燃え盛る炎の如き紅の瞳。白銀の体躯に水色の瞳を持つ血統の竜とは、まさに対照的だ。
陽たちが近づくと、伏せていた頭を擡げて継承の竜は獰猛な鳴き声を上げた。尋常でないその声に気圧されて後退る。
「怒ってる。近づくなって」
少しでも近づこうとすると、黒竜は歯茎を剥き出しにして人間たちを威喝した。
「火を噴くから気を付けろ」
陽の記憶が正しければ、白竜は水を、黒竜は炎を司っているはずだ。
夕暉たちを導いた白竜は、黒竜をちらりと眇めて王座のような幕の内へすっと腰を下ろした。優雅な所作だった。一方の継承の竜は威嚇しながらも頑なにその場を動こうとしない。
「宝剣を守ってるのかな」
「だろうな」
何としてでも、夕暉はその宝剣を持ち帰らなくてはならない。夕暉が柳眉を下げる。
「うーん」
怒気に満ちたあの様子では、到底、交渉できるとは思えない。黒竜は警戒心も顕わに、ふたりを睨みつけている。
夕暉はゆっくりと足を踏み出した。陽と白竜の見守る中、音もなく黒竜の前に進み出た夕暉がすっと姿勢を低める。流れるような所作で片膝をたて、真っ直ぐに竜を見上げた。
「継承の竜、俺の名前は夕暉です。ご存じかもしれませんが、今、王国は大変なことになっています」
夕暉の言葉を黒竜はじっと聞いている。
「慈光さんが命を奪われ、ヘルゲという地上の男が玉座を簒奪してしまいました。けれど王としての能力がなく、幼いコウちゃんたち王族が代わって国を守っています。でももう限界です」
そこで黒竜は、甲高い音で喉を鳴らした。悔し気に夕暉は柳眉を顰める。
「この事態を招いたのは、俺のせいです。お叱りは甘んじて受けます。だから、俺に償う機会をください。俺に、王としてこの国を守ることを認めて欲しい」
地の底から響くような恐ろしい音が轟いた。
激しい火炎に視界を焼かれ、陽は思わず腕で顔を覆った。かなりの距離があったのに、頬の産毛がチリチリと焼かれるのを感じる。黒竜が突然、炎を吐いたのだ。
間髪入れずにもう一度、一直線に向かってきた炎を咄嗟に横に回転することで躱した夕暉だったが、右の袂に火が付いた。
「貸せっ」
陽は夕暉の袖に飛びついた。火の付いた袂を力づくで破り取る。すかさず第三波がふたりを襲った。激しい追撃の炎を避け、陽は夕暉と逆方向へ飛ぶ。
「陽くん!」
「こっちは良い! お前は継承の竜と、太刀を探すのに集中しろ!!」
駆け寄ろうとした夕暉を鋭く制し、陽は叫んだ。避けた時に落としてしまった袂に駆け寄り、必死に消火を試みる。
「あちっ、くそっ、消えねえ!」
特殊な炎なのか、袂はあっという間に火達磨になった。砂をかけても岩を乗せても駄目だ。広いとはいえ洞窟の中だ。消火できなければ結末は明白だ。
陽が必死に袂に着いた火と格闘している間、夕暉は右に左にと黒竜の炎を避けながら、地べたを転がりまわっていた。黒竜は明らかに夕暉だけを狙っている。
三度、四度、と立て続けに吐き出される炎を避け、夕暉は黒竜を睨み上げた。
「俺はヘルゲとは違う! 俺は王国を元に戻したいだけなのに……。どうして、どうして認めてくれないんですかっ」
夕暉の叫びで黒竜の怒気が一層膨れ上がった。空気がビリビリと震える。
竜の口がひときわ大きく開いた。これまでにない至近距離で開いた口に、夕暉はハッと目を見開いた。
これまでの比ではない強烈な一撃。躱しきれず炎に包まれかけた瞬間、横から鉄砲水のような青流が割って入った。衝撃波で飛ばされてきた夕暉の身体を、間一髪で陽が受け止める。
「ぐっ……っ」
再び壁面に背を打ち付けて、二人分の重みで呼吸が止まる。夕暉を庇ったせいで受け身を取り損ねた。
「陽くん、ごめ……っ」
「っ……いい、大丈夫だ」
夕暉を制して立ち上がる。
襲い来る炎は、陽たちに届く前に無効化された。
ふたりを黒竜の炎から守ったのは、白竜だった。陽は深い溜息を吐く。
白竜は重ねて炎を吐き出そうとした黒竜へ、吠えた。黒竜も負けじと声を上げる。洞窟の中央で、黒竜の炎と白竜の水が激突した。
二頭の視線が交わり火花を散らす。夕暉に向かって発射される黒竜の炎の渦を、白竜が何度も防ぐ。攻防の狭間、白竜がひときわ大きく口を開いた。超音波のような咆哮に、堪らず陽は耳を覆ってしゃがみ込む。夕暉も顔を歪めている。
長い咆哮が止むと、白竜は夕暉をちらり一瞥し小さく喉を鳴らしてみせた。小鳥の囀りのような軽やかな鳴き声だ。その声に顔を上げた夕暉は、ぱっと表情を輝かせた。
「ありがとう!」
白竜に礼を述べて、夕暉は勢いよく黒竜の足元へ滑り込んだ。不意を突かれて黒竜が夕暉の姿を見失う。
一瞬の隙で、勝負は決まった。
継承の竜の懐に潜り込み、黒竜が大切に抱え込んでいたものを夕暉の手が掴んだ。
「よしっ、取った! ……あれ?」
手にしたものを視界に入れて、夕暉は首を傾げた。なんだか思っていたのと違う。宝剣を手にしたと思ったのだが、明らかに形状が太刀ではない。
「たまご。……あわわ、割れっ」
破裂音と共に大きな亀裂が入る。
焦る夕暉をよそに、ピィと鳥のような鳴き声と共に飛び出してきたのは、両手で持ち上げられるほどの小さな竜だった。漆黒の躰に水色の目をしている。夕暉がそっと広げた掌で、生まれたての竜は頻りに翼を震わせてぴょこぴょこ飛び上がろうとしている。
血統の竜が、夕暉に向かって猫の仔のように喉を鳴らした。夕暉がパッと顔を上げる。
「へー、この子、シグリンの子供なんだ。可愛いっ」
白竜を見上げて喋り始めた夕暉を、陽は不審者を見るような目つきで見た。陽の視線を気にも留めず、白竜の鳴き声に合わせて夕暉はうんうんと頷いている。
「……ああ~。アケトさんは、ヤキモチやいてたからあんなに怒ってたんだあ」
夕暉の台詞に、陽は額を押さえた。
「ちょっと待て、待て。シグリン? アケト? ……お前、何言ってんだ」
陽に問われて夕暉が順に示した先にいたのは、白竜と黒竜だった。二頭はじっと、水晶玉のような目をふたりに定めている。
「ぬし様は志久里、パートナーが継承の竜で明徒って言う名前でしょ。シグリンが道すがら言ってたじゃん。初めて知ったよね」
ね、と言われても。ツッコミたいことが多すぎて処理しきれない。
無反応の陽に夕暉は小首を傾げる。無言で見つめ合った。団栗眼は不思議そうに陽を見下ろしている。
「つーか、番? 黒い方はオスなのか」
陽はまじまじと二頭を見比べた。アケトと呼ばれた漆黒の竜は、白竜より一回り程小さい。
「え、さっき、シグリンがそう言って……」
言いながら「あれ?」と夕暉が首を傾げた。
「聞こえなかった?」
「……竜たちと意志疎通ができるとか、やっぱお前、規格外だわ」
「俺って結局、認めて貰えたのかな」
首を傾げる夕暉の頭のまわりでは、よろよろと、それでも飛べるようになった竜の子供が纏わりつくように羽ばたいている。志久里の子供だけあって成長が速い。
「どうだろう。肝心の太刀は抜いてねえし」
「あ、そっか。太刀は何処にあるんだろ」
夕暉の言葉で、白黒二頭の竜の視線が交わる。シグリが低く喉を鳴らした。地鳴りのような声。黒竜がキュウウと哀れっぽい音を立てる。どうやら叱られたようだ。固い鱗で覆われた背が、しょんぼりと丸まっている。
その黒い背がくるりと後ろを向いたと思ったら、何かを咥えて夕暉に向かって勢いよく投げた。夕暉が難なく受け取ったものを見て、陽はあんぐりと顎を落とした。
「凄い豪奢な太刀だね。飾太刀?」
受け取った大太刀を目の前にかざしてまじまじと眺め、興味深そうに夕暉が言った。
鞘は金沃懸地塗に金剛石の珠を持った竜の螺鈿で、長金物部分には色とりどりの宝石が鏤められている。反りは緩やかで、全体の印象は公家の餝剣に近い。しかし鍔は唐鍔ではなく、刀にするような金のもので、華奢な透かしで宝尽くしを表している。柄は白い皮に紅玉が埋め込まれ、柄頭には向き合う鳳凰の姿を緻密な細工で表現していた。竜の形をした対の山形金物は恐らく目の前の番を表現しているのだろう。煌びやかな大太刀は、洞窟内の光を反射して七色に光り輝いていた。
夕暉はそっと柄に指を這わせる。人知を超えた美しさだった。
「ちょっと抜いてみろよ」
頷いて夕暉が鯉口を切る。太刀はあっさりと優美な刀身を現した。
「うわ、凄い綺麗な刃紋」
鞘から抜いた刃を目前に翳して夕暉がうっとりと言った。感嘆の声に、黒竜が得意げに胸を反らす。夕暉は明徒をぽかんと見上げた。
「これ、アケトさんが昔鍛えたって。刀鍛冶だったんだって」
「竜が刀鍛冶」
陽の脳内では、刀を鍛える竜の映像が再生される。非情にシュールだ。陽は引き攣った笑いを浮かべた。
丁寧な手つきで鞘に戻して、夕暉はふむと唇を尖らせる。
刀身が優に百六十センチはあろう大太刀だ。居合と剣道の心得のある夕暉をして、扱い辛そうにしている。
「何というか、正倉院に納められてそう」
ショーソーインとやらが何かは分からないが、これだけは言える。
「つーかそれ、普通は自分で地面から抜くもんだけどな」
「ペイッって投げられたねえ」
あっけらかんと夕暉は言うが、彼はそれがどれだけ異常なことか、全く理解していない。度重なる「異例」と「前代未聞」。夕暉が王国に来てから今日まで、異常事態が通常になりすぎて、感覚が麻痺してくる。
志久里が高らかに鳴いた。
歌うような声。祝福の歌。
天上の調べと称されるような流麗な旋律が、洞窟内に反響する。うっとりと耳を傾ける夕暉を眺めて、陽は内心で深い嘆息を零した。
思えば彼女こそが、はじめての「異常」だった。それも自ら夕暉を地上まで迎えに来るという、考えられないほどの特別待遇だ。これまでに継承の試練に臨んだ歴代王たちが、志久里に遭遇したという記録はない。志久里が出迎えてくれたことも、いま歌っていることも、確かめるまでもなく前例がないはずだ。
起こった「異常事態」の全てが、夕暉を肯定し歓迎しているように思える。
白竜の声が止むと、夕暉は晴れやかに笑った。その頬は煤に塗れて真っ黒だ。艶やかだった髪の毛は炎で所々縮れているし、真新しかった王国服はあちこち破れて泥に塗れ、髪と同様に焼けた跡がある。恐らく陽も同じような有様だろう。
真っすぐに伸びた背を、掌で軽く叩く。
「夕暉……いや、国王。頼んだぜ」
「精一杯、王国のために働きます」
神妙な面持ちで夕暉は言った。
二頭の竜が見守る前で、陽と夕暉は見届け人と王として、定められた宣誓の問答を行った。
山でこなすべき全てのことを終えると、夕暉は腕の中の太刀に視線を落とした。
「これ持って、来た道をまた戻るんだよね。落とさないか心配。帯執もついてないし。うーん、刀だと思って逆さに帯に差しとくか」
夕暉は帯に太刀を差し込んだ。太刀と刀の違いは不明だが、確かに持ち歩くには長すぎて違和感がある。山形金物が引っ掛かって差しにくそうだ。中途半場に腰に差し、左右に身体を捩じってみて夕暉は嘆いた。
「やっぱ長っ。絶対に引きずるか、どっかに当てちゃうよ、これ」
「なんか、締まんねえなあ」
そう言う陽の口元には、自然と笑みが浮かんでいた。
「よし、帰ろうか」
頷き合ったふたりの上に影が落ちる。同時に夕暉の身体が宙に浮いた。夕暉の唇から、間の抜けた声が転がり出る。
白竜の口が夕暉の帯を咥えていた。
「もしかして、また乗せてくれるの?」
返事に代えて、志久里は大切そうに夕暉の胴体を優しく食み己の背に乗せた。視界の隅では、黒竜が分かりやすくぶすくれている。
むくれた番を放置して洞窟を抜け出した志久里は、勢いよく空へ飛び立った。
竜の山の尾根沿いに、西から反時計回りで王国の上を旋回しながら、少しずつ高度を下げてゆく。上空から見下ろす王国は、以前と変わらぬ風に見えた。
王国を眺める夕暉の横顔を、陽は黙って眺めている。夕暉の表情からはいま彼が何を思うのか全く読みとることが出来なかった。微笑んでいるような、泣いているような、怒っているような、そんな不思議な表情だった。
志久里は悠然と王国の上を一周すると、明確に高度を落とし始めた。みるみるうちに地上が近づいてくる。
凪いだ海のような横顔で王国を見下ろしていた夕暉の目が、ある一点を見た瞬間、突然カッと見開いた。
「っ、ヘルゲ!!」
「あ、おい、夕暉っ」
憎むべき男の姿を脳が認識した時にはもう、焦った陽の声を置き去りに、夕暉の足は志久里の背を蹴って宙に飛び出していた。
着地と同時に大太刀を抜きヘルゲの鼻先に突き付ける。数センチ先に切先を突き付けられても、ヘルゲは表情を動かさなかった。
突然、空から降って来た夕暉に動揺したものの、ヘルゲの周囲を警護していた兵士たちは、一斉に夕暉へ刃を向けた。短期間の間に随分と訓練が進んでいる。
「おい、勝手に先行くんじゃねえよ!」
「相変わらずつるんでんだな」
夕暉を追って飛び降りてきた陽を見て僅かに目を細めたヘルゲの姿に、陽は違和感を覚えた。
「夕暉様、陽様!」
帰還を待っていたらしい教臣と音緒が走ってくるのが、視界の隅に映る。
「まーた勝手に出てやがる。閉じ込めて見張ってたんじゃねえのかよ。使えねえなぁ」
ヘルゲは大きな溜息を吐いた。陽たちのもとへたどり着くと、教臣は険しい表情でヘルゲに対峙した。
「ひとつ、聞きたいことがある」
「なんだ」
鷹揚にヘルゲが顎をしゃくる。
「慈光様を手に掛けた時、お前はどうやって王宮に入り込んだ。慈光様は決して、おひとりになることはない。ましてや手が届く距離に、王族以外が接近することなど」
教臣の言葉に陽はハッとする。確かにその通りだ。なぜ地上の人間であるはずのヘルゲが、王国の事情に精通していたのか。その疑問はすぐに解けた。
ふんと鼻で嗤って、ヘルゲは僅かに口端を歪めた。
「簡単だったぜ。こいつの手引きがあったからな」
同時に陰から静かに姿を現した男を見て、一同は驚愕に目を見開いた。
「要さん……」
夕暉が唖然と呟く。教臣は無表情で要を見つめた。教臣の視線から逃げるように、要はすっと顔を反らす。変わってヘルゲが顎をしゃくった。
「金が必要なんだってよ。そうそう、コイツも何人か殺してるぜ」
「王国人の要さんが、人を殺すだなんて」
独り言のような静かな夕暉の声に、要は弾かれたように顔を上げた。
「っ、貴方には分かりません! 王族としてお生まれになり、こうして戻ったあと何不自由なく、何の憂いもなくいつもヘラヘラと、太平楽に笑っていらっしゃって……っ」
台詞の途中でガツンと鈍い音がして、要は地面に勢いよく倒れ込んだ。音緒が要の頬を張ったのだ。大きな瞳いっぱいに零れそうな涙を湛えて音緒が叫んだ。要は呆気に取られて彼を見上げた。
「要さんに、何がわかるのですか! 夕暉様のこれまでの、一体何を知っているって言うんですか!! 明るい夕暉様しか見ていない要さんには、そんなこと、言われたくありません!! 知らないくせに! 何も知らないくせに!!」
倒れた要に跨って胸倉を掴んで揺さぶる音緒には、普段のオドオドした様子を微塵も感じさせない迫力があった。
大粒の涙を零しながら、音緒は何度も何度も「謝れ」と繰り返した。
音緒の怒りに誘発されて陽も吠えた。押さえていた感情が一気に爆発する。
「音緒の言う通りだ。お前にだけは言われたくねえな。……夕暉の笑顔は偽物じゃない、仮面じゃない。あいつが笑う時は勿論、心から笑ってるよ。けど、そんな単純なもんじゃない。内側で色んな傷を抱えて、倦ませて疼かせて、堪えて、それでも乗り越えて、本気で笑ってんだ! 他人には少しも影を見せないで! その強さが分かるか。その凄さが、お前なんかに分かるのか!?」
「ばか、要さんの、ばか、大ばか!!」
音緒は要を詰りながら、彼の胸を何度も叩く。要はふたりの剣幕に言葉を失った。
「陽くん、音緒くん、下がってて」
ふたりを背後に下がらせると、大太刀を構えなおして真っ直ぐにヘルゲを見つめた。
「ヘルゲ、俺たちは、お前を王とは認めない」
「で、認めないならどうする。そのやたらと派手な剣で、俺の首でも跳ねるのか?」
夕暉はヘルゲを睨み上げたまま、厳かに宣言した。
「もうこの国で、これ以上、人は死なせない。それがヘルゲだろうが誰であろうが、絶対に。俺が、今日から、この国の王だ!!」
「お前は……、っ!?」
その続きは聞く事が出来なかった。ヘルゲが口を開いた瞬間、その足元が宙に浮いた。否、足元に空が現れた。
「うわあああああぁぁぁ……」
悲鳴はあっという間に遠ざかって、すぐに聞こえなくなった。
「嘘ぉ!?」
遥か足許を見下ろして、夕暉は思わず絶叫した。
隣ではさっきまで激怒していたはずの陽が、笑い転げている。文字通りあたりを右へ左へと転がって、「目が、目がぁ~」と爆笑しながら叫んでいるので、笑っている理由はすぐに知れた。
唖然と眼下の光景を凝視する。今起こった事象が全く理解出来ない。
「こんなのって、あり……?」
「アリなんだろ」
陽がヒィヒィ笑いながら言った。目元には笑い過ぎて涙が流れている。
「やべえ、リアル大佐」
呟いてはまた、クツクツと肩を震わせる。
「ねえ、普通はここから俺が、華麗な剣技で戦うとこじゃない!? もうちょっとさ、定石通りの展開をさあ……」
「無茶いうなって! ……夕暉?」
遠い足元を見つめて動かない夕暉に、陽は笑いを止めて身を起こす。夕暉が呟いた。
「本当に、あれで良かったのかな」
静かな声音だった。眼下には青々とした空が広がっている。人ひとりを呑みこんだとは思えないほどの静謐。非の打ちどころのない蒼空に、夕暉の膝が震えた。
足元が崩れて落ちてゆこうとする瞬間、ヘルゲと目が合った。彼は僅かに微笑んだ気がした。いつもの軽薄を装った作り笑いではなく、無防備に柔らかく。何かから解放されてホッとした、そんな顔に見えた。もしかしたら夕暉の見間違いで、勘違いだったのかも知れない。けれどその一瞬の光景は、夕暉の喉骨の辺りでグズグズと蟠った。
ふと、教臣が独り言のように呟いた。
「もう、ご存じでしょうが、夕暉様はもともと、正当なる王家の血筋でした」
教臣の言葉に陽のほうが反応する。
「やっぱり、夕暉はおれの実の兄貴なんだな」
溜息が零れた。実の兄弟だったことに安堵する。事実を幾つ積み重ねても、決定打がなかったからだ。夕暉が驚いて振り返る。
「おれには一つ上の兄がいたっつったろ。でもおれが生まれる前に死んだって聞いてたんだ。王国ではそう伝わってた。けど、本当は違った。お前は慈光と凪の子で、不慮の事故で王国から落ちて、長らく行方知れずだった第一王子だ。なあ、教臣。そうなんだろ」
教臣は僅かに頷いて肯定を示す。
「ええ。それも生まれながらにして、歴代の誰よりも王としての適正が高かった。そんな夕暉様と知己であり、また同じタイミングで王国に入ってしまった、それがあの男の不幸でした。王国の雲が、ヘルゲを貴方の賓客、つまり国賓待遇の者だと勘違いし、此処へ招いてしまった」
「ですが、ヘルゲは多くの人を殺しました。しかも時の王、慈光さんまで手にかけている。なのに、雲がヘルゲを今に至るまで排除しなかったのは何故ですか」
夕暉の問いに、教臣は僅かに逡巡を見せた後、静かな声で答えた。
「夕暉様、貴方の能力は、慈光様を遥かに凌ぎます。金剛石の大きさと色からも分かるように、歴代でも稀にみる強さです。強大な王族としての力を持つ貴方の親しき者。王国の雲は、生き物のように意志を持っています。王国を次に維持する立場にある貴方の親しい人間、それが慈光様を排斥した。雲はそれを次の王の意志だと解釈したのでしょう」
「俺が、王国に来たから……」
「お前は帰って来ただけだ。元居た場所に」
「その通りです。貴方には一切の瑕疵がありません。もし貴方が悪いと仰るのであれば、その起源を、夕暉様を王国から落としてしまった乳母、そしてその事実を隠してしまった慈光様たちにまで求めなくてはならなくなります」
夕暉は何か言いたげに二度、唇を震わせた。夕暉が言葉を発するより早く、教臣が言葉を継ぐ。
「そうなれば、その責任は貴方以上に重大です。夕暉様はそれでも自分が悪いと仰いますか?」
夕暉は答えない。陽は彼の背中に静かに手を添えた。これから王国の全てを背負ってゆく背中だ。陽が背負うべきだった重責、その全てが夕暉の肩に圧し掛かっている。陽は慰撫のように夕暉の背中を柔らかく擦った。
「夕暉様、貴方は今この国の新王として立った。王は王国の心臓です。文字通り、貴方なしには、この国は滅ぶしかありません。その王国の心臓がヘルゲを敵だと認識した時点で、奴は闖入者と認識された。当然のことです。アレは王国に在ってはならない排除すべき存在でした。夕暉様、良いですか。王国で血が流れたのはヘルゲが手を下したからです。慈光様が弑逆されたのは、奴の悪意のせいです。他の誰のせいでもありません。夕暉様も陽様も、小夜も。それから腹心として誰よりも傍にありながら慈光様を守り切れなかったわたくしももちろん、誰も悪くはないのです」
教臣の自虐にも、夕暉は少しも笑わなかった。
ああ、と教臣は目を細めた。
「夕暉様の御力が強すぎたために、ヘルゲまでが王国に入ってしまったことを、まだ気になさっているのですか」
夕暉はいっそう強く唇を噛みしめる。
「しかしそれこそが、夕暉様が正統な王位継承者であることの証でもあるのですよ」
夕暉の帰還で王国は揺れた。揺れ、かき乱され、結果として沢山の血が流れてしまった。失われた命は二度と戻らない。汚してしまった。楽園を、美しいこの国を。いつの間にか握りしめていた夕暉の拳が、ミシリと軋みを上げた。
「清すぎる水に、生き物は棲めない」
陽の声に、夕暉は驚いて首を巡らせた。内心を読まれたような絶妙のタイミングだったからだ。
「お前が言ったんだ。きっと必然だった。おれはそう思う。綺麗なだけでは、この先きっと、王国は存続できなかったんだ」
真摯な双眸が、夕暉をひたと見つめている。夕暉は無言で彼を見つめ返した。半年ほど苦楽を共にした実の弟は、慣れない言葉を懸命に駆使して夕暉に訴えた。
「時空は滅多に交差しないから、他の国に接近する機会はそう多くない。でもゼロじゃねえんだ。王国みたいな無菌状態の国ばかりでもない。軍団を持って、侵略を繰り返している国だってあるらしい」
「一般には知らされていませんが、過去に三度、王国は侵略の危機にさらされています」
教臣が言い添えた。
「そのたびに王がこれを退けたため大事にならずにいましたが、代々の王と、その近侍一人だけが知り得る事実です。王や上層部が『地上』を学問するのはそのためです」
陽が続きを引き継ぐ。
「有事に備えて、おれたちは『負』を学ぶ。王国民の安寧を守るために、王族は敢えて穢れを学ぶんだ。王国の維持に、それが必要不可欠だから」
「必要な、穢れ……」
夕暉の唇がポツリと呟いた。
「だから、夕暉が生まれてすぐに地上に落ちたことも、おれがお前のいた場所に落ちたことも。出会ってまた王国に戻ってきたことも、全部、必然だったんだとおれは思う。今回の件は……、人死にが出たことは不幸だった。でも今後の安定を考えると、王国にとっては免疫が出来て良かったんだよ」
陽は必死に言葉を紡ぐ。
「永遠に続く光よりも、深い夜を越えた朝のほうがきっと綺麗だ。雨あがりの夕焼けが、いっそう輝いて見えるみたいに」
真っすぐに夕暉を見上げてくる陽の双眸からは、強い意志が感じられた。人を慰めるなんて、陽とっては間違いなく生まれて初めてのことだ。苦手な事でもある。なのに夕暉のために懸命に言葉を尽くしてくれている。
夕暉の心にほんのりと温もりの灯が点る。夕暉の背中に添えられた手が暖かい。
「振り返るな、夕暉。悔いても決して歩みを止めるな。全部、お前が教えてくれた言葉だ。なあ夕暉、もっと良くしよう。その努力をすることが、おれたちに出来る全てだ。悔いているなら、その贖罪にこれからを生きよう」
熱い掌にグッと力が籠る。その温度は確かに全身を巡り、夕暉の心身を温めた。
「夕暉様。いえ、我が王国の、新王様」
恭しく片膝を付き、教臣は頭を垂れた。
神官が恭しく差し出す緋色の袱紗には、黄金に輝く王笏が納まっている。試練に臨む前に見た仮のものではない。夕暉の紋が刻まれた専用の王笏だ。先端には、いつか血統の竜が運んできた大きな金剛石が燦然と輝いている。深い海のような美しい青い石だ。
夕暉はしばししそれを見つめ、ゆっくりと手に取った。
「重い」
呟いた夕暉の隣で、陽はそっと王笏に手を添えた。
「お前ひとりには、背負わせねえよ」
「うん」
陽の言葉に夕暉は解顔した。小さく頷いて、跪く男をひたと見据えた。
「教臣さん」
「はい」
呼ばれて男が姿勢を正す。若い新王は首を傾げて教臣に微笑んだ。
「俺がもともと王族だったなら、陽くんが俺を王国に連れて来てくれたのって、別に違反じゃないんじゃないですか」
「ええ」
「じゃあ陽くんには王族に戻って貰って、ついでに宰相をして欲しいんだけど」
教臣はあっさりと頷いた。
「発音も変わっておられませんし、問題はございません。陽様に宰相などという大役が務まるのかは別として」
「お前は嫌味を添えないと喋れない病気か」
「病、強いて言うならムカツキですかね。またはアレルギー」
しれっと嫌味を重ねられ、陽は盛大に顔を歪めた。そんな陽をちらりと見ると、夕暉は教臣に向かって片目を瞑って見せた。
「正直ちょっと心もとないので、教臣さんには、宰相補佐をお願いしようと思います」
「はあァ~?」
「わたくしも、ですか?」
陽が心底厭そうな声で、教臣が毒気を抜かれた様子で、同じ方向に首を傾ける。夕暉はあっさりと頷いた。
「うん、俺は元の王国を完全には知らないし。一番それを良く分かっているのはふたりでしょう。陽くんと教臣さんの助けなしには元通りにするなんて不可能だよ」
「宰相補佐の任を、謹んで拝命いたします」
間髪入れずに教臣が答えた。
「陽くん、手伝ってくれるでしょ。儀式にまで付き合ってくれたのに、今更いち抜けなんて薄情なことはしないよね」
「…………分かった」
長い長い溜めのあと、苦虫を一万匹嚙み潰したよりもひどい顔で、陽は不承不承頷いた。
「ありがとう」
夕暉が満面の笑みを浮かべた瞬間、背後の空がにわかに黄金色に輝いた。
太陽がふたつ、そう錯覚するほどの眩い黄金の天馬車が、突如として虚空に姿を現した。天馬車はゆっくりと高度を下げると、一同の前に降り立った。
「紅霞様!」
中から姿を現した人物を見て教臣が叫んだ。声から隠しきれない嬉しさが滲んでいる。教臣の声で振り返った陽は、満面の笑みを浮かべると全力で駆けだした。両手を広げた紅霞に勢いよく飛びつく。
「じいちゃん!」
「わっ、陽、あなた少し見ない間に凄く重くなりましたね!」
「おじいちゃん!?」
夕暉が目を剥いた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。え、陽くんのおじいちゃんって、先王だよね。亡くなったって言ってなかった!?」
「はあ? 死んでねえぞ」
「そんなこと、言いましたっけ」
陽たち主従は、ポカンとした顔で夕暉を振り返った。
「だって、陽くんも教臣さんも、『先王は西の国に行った』って。……あいたたた、あ、痛み止め切れてきた、足が痛いい」
「飛び降りたりするからだろ、ばか」
「いや、あの時は怒りでアドレナリンが」
首を傾げていた教臣は、合点がいったように頷いた。
「ああ、そういえば。地上ではお亡くなりになることを『西の国に行く』と表現することもあるのでしたね。ですが、紅霞様は文字通り、旅に出られていただけですよ」
「ご覧の通り、ぴんぴんしております」
にこにこと言い添えたのは紅霞だ。飛びついてきた陽を難なく受け止め、頭を優しく撫でている。撫でられた陽は、喜色を隠そうともせずうっとりと目を細めた。陽向の猫のように満足そうな表情だ。
展開についてゆけず口を大きく開いたままの夕暉に、教臣が言い添える。
「『西の国』というのは通称なのです。彼の国が名乗っておられる正式名称は『虹の国』です。けれど時空が交わる時、いつも決まって虹の国は王国の西に現れるので、王国民は『西の国』と呼んでいます。または単に『ニシ』とも。それより紅霞様、どうしてお戻りに」
「使いが来てね」
紅霞が言ったのと同時に、ピイと鳴き声がして、彼の背中から一頭の仔竜が飛び出した。夕暉と陽は揃って仔竜を指さす。
「夕暉が孵した、あいつ!」
「ぬし様たちの間に生まれてくる水色の目をした黒竜だけが、時空を自由に行きかうことができるのですよ。事情はこの仔から全て聞きました」
紅霞は微笑んで、静かに睫毛を伏せた。
「あの子、慈光のことは残念でした。けれど夕暉が今の王になったのですね。王になった貴方に逢えてうれしいです」
「……陽くん。王国の人って、不老不死? それとも蘇るの」
「は?」
真剣な表情で、夕暉は言った。
「だって、紅霞さんってキミのおじいちゃんなんでしょ?」
「お前のじいちゃんでもあるけどな」
祖父だというが、おっとりと微笑む紅霞は、どう見ても三十台にしか見えない。しかも前半だ。
「ああ、そうか。地上では人は年を重ねてゆくと、身体の老化が進むのでしたね」
紅霞が頷いた。流石、地上研究の権威と称されるだけはある。
コアラのように祖父に巻き付いていた陽は、地面に足を下ろすと真面目な顔で言った。
「そういや、シワシワのやつがいっぱいいたな。そういうのが地上で流行ってんのかと思ってた。皺が多い方が、格好良い的な」
夕暉は、思わずお手本のように見事な裏拳でツッコんだ。
「んなわけあるかい。そういえば、この王国も名前あるの? ほかの国からはなんて呼ばれるの」
「金鴉の国だ。多くの国はそう呼ぶ。まあおれたちは単に王国って呼ぶけどな」
「金鴉の国。この王国にぴったりの名前だね」
新しい王は、笑った。真正面でそれを受けとった陽は、知らず目を細める。出会った日の夕暮れの光に似た眩しい笑顔だった。
【終】
太陽の王国 御幸ヶ峰 由夏 @yuka-miyukigam1ne
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