第3話潜在能力
ボクの名前は如月輝。天王寺学園に入学したばかりの高校1年生だ。クラスは特別学級で、いわゆる劣等生。
天は人の上に人を造らず。えらい人はそう言っていた。しかし現実はそうではない。力を持つものが権力を有し、レッテルを貼ることで承認欲求を満たしている。
数日間、学びやで感じたことは結局のところ『勝てば官軍』の世界だった。
異能というのは多岐に渡っている。五感や肉体の強化が基本にあり、そこから様々な能力に派生する。詳しいことは分からないし、あまり興味もない。
彼らの個性を生かし、将来を見据えてクラス分けがなされていた。その最下層にいるのがボクのクラスである。
落ちこぼれのようか位置ではあるが、ごくまれに強力な能力者が生まれるそうで、教員達は警戒感を持って接してくる。その腫れ物扱いに対し、不満を持つ生徒が存在する。
無能の癖に一目置かれている。その事実が許せないらしい。ここ数日、生傷の絶えない日々が続いている。
記憶を無くした女性が、手に持つコップを足に落とした衝撃で記憶を呼び起こす。何がきっかけで我に帰るか分からない。刺激的なことはいいことだ。
ボロ雑巾のようにぼこぼこにされた体を何とか起こす。誰もいない校舎。外から月明かりが射し込み、鈴虫が鳴いていた。
「おい」
声の方向に視線を向けると、女子生徒が立っていた。腕を組み、じっと見下ろされる。後光のように背後から光が射しているが、その表情は菩薩というよりも般若に近い。
女はスッとかがみ、人差し指をボクの顔に向けた。上半身だけ廊下の壁にもたれたボクは、その指をただ見ることしかできない。女の子は言った。
「逃げるか、戦うか。わたしは中途半端が嫌いだ」
指先から女の子に目を移すと、美しい顔立ちをしていた。髪はポニーテールで、凛とした瞳。ややつり目が意思の強さを思わせる。
「軟弱な男は大嫌いだ」
泣きっ面に蜂とはこのことで、体の次は精神面と来た。しかしそれも時と場合による。ボクは素知らぬ顔で女の子と見つめ合う。美人の罵倒はご褒美なのだ。
「お前は、軟弱か?」
両手を乗せた両膝を揃え、息のかかりそうな距離で唐突に問われた。罵詈雑言を期待していた脳が錯乱している。
真剣な瞳で見つめられ、変な気分になってきた。息が漏れる唇に釘付けだった。女の子は一度目をふせると、一つ頷いた。
「確かめてやる」
何をと聞く暇もなく、一本背負いの姿勢で、軽々と持ち上げられる。彼女は大きなカバンを持っている。片手でボクを持つ。
一人で歩けると言おうとした矢先に空を飛んでいた。しかしそれは跳躍の間違いだったが、どちらでも大した問題ではないだろう。
後に残されたボクのカバンが、ひっそりと月明かりに照らされていた。
記憶の旅 @koukishinshin
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