第二部

 北海道を一周して、東北を南下し、福島を出ようとしていた時だった。大学で参加していたサークルの代表から突然連絡があり、どうしても僕と飲みに行きたいと言う。本来なら群馬、栃木、茨城、埼玉、千葉と巡ってから東京に行くはずだったのだが、何か訳アリのようなので、それら五県をすっ飛ばして東京に入ることにした。福島から東京までは約三百キロで、バイクでも四、五時間かかる道程だった。だが言うなれば四、五時間だ。明朝どころか午後に出ても十分間に合う距離だ。だから僕はもうひと眠りすることにした。時刻は朝八時を回ったところだった。

 朝や夜は冷えているが日が昇ってくると冬用シュラフだと汗ばむくらいの気候になり始めた春。僕は愛用している一人テントから這い出して、福島の朝――昼――を臨んだ。北海道や東北の北部と比べてしまえば空気のうまさはそれほどでもないかもしれないが、大学があった東京なんかに比べたら、天と地の程の差があった。

 鼻腔から流れ込んでくる新鮮な空気には少し花粉が混じっているようで、鼻奥をくすぐるが、どうしようもないほどの花粉症ではない僕はもう一度大きく深呼吸をした。

 寂れた道の駅の一角でテントを張らせてもらっていた僕はそそくさとテントとキャンプの解体を始め、簡易椅子と焚き火台のみ残して、バイクの荷台にそれらを積み込んだ。昨日炊いていた焚き火は既に消えているので、近くの茂みからいくらかの渇いた草と木の枝を持ってきてライターで火を熾した。

 作業をしている瞬間は、こんな世間で認められるわけがない生活をしているという現実を頭から忘れさせてくれるから気持ちが良かった。それでも火が熾きてしまえば頭はあらゆることを考え始める。

 真面目に生きてきたはずなのに、コロナなんて目に見えもしないウイルスに将来をぶち壊しにされた僕は、今でもあの面接での絶望を夢に見ることがあった。だからご飯を食べたらすぐにバイクに跨って、東京を目指す。

 現実を忘れられるのは三つ。作業をしているとき、バイクに乗っているとき、酒を飲んでいるときだった。こう考えてみると、本当に僕はクズというか愚図になり下がったんだなと痛感する。世界がこんなだったから仕方ないなんて言い訳も、あれから一年経った今では言い訳にならない。それでも僕は旅がやめられなかった。

 地に足のついたとか、根を張ったとかそんな考えが好きだったはずだが、意外にもこういった生活も嫌いではないのかもしれない。しかもなにより今日は旧友に会えるということに少し胸が昂っていた。

 これほどまでに変わってしまった自分を見て、あいつはどう思うかはわからないけど、その前に気付いてもらえるかもわからない。

 千円カットにも見える刈り上げのダサい短髪に、襟シャツに友人からおしゃれと聞いた黒スキニーをずっと着ていた僕は確実にサークルで浮いた存在だったと思う。でも今となってはサルエルパンツにロング丈で薄手のコートに道中で出会った外国人にもらった魔除けのネックレス。それに一応切り揃えられているが蓄えられた髭に、髪の毛は伸びきって結んでいる。昔の僕との共通点といえばこのバイクと眼鏡だった。

 浮世離れの旅人。恐らくこれが一番体を表していると思う。これだけ姿を変えたのも、ふと鏡を見ると、社会に受け入れられなかったダメな自分がずっとそこにいるのが許せなくて、反骨精神のようなもので、社会に受け入れられないだろう格好を好んだ。

 だからか未だ社会が強く根強く形成されている東京は嫌いで、高速の上りを行けば行くほど見えてくる都会の喧騒のようなものがとても嫌だった。でも友人に会える。それだけを頼りに僕はバイクのアクセルを捻った。


 それから適当なパーキングにバイクを止めた僕は、あいつとの待ち合わせ場所であった居酒屋の暖簾を潜った。

 都内の居酒屋は地方の居酒屋より比べて圧倒的に五月蠅い。それも頭にくる五月蠅さだと思う。小さな店の中にたくさんの人がひしめき合って、思い思いの話を、大声でしている。互いが互いを五月蠅いと思って、よりその声が大きくなっていく。

 地方の同じような大きさの居酒屋だと、皆が皆友達みたいな感覚だからこそ、その喧騒は個々のものではなく、一体感のある騒ぎになる。言うなればコンサートみたいなものだろうか。来ている客全員でその店を楽しむような。でも都内の居酒屋は愚痴や陰口の踏み台に過ぎない。

 店に入った瞬間に、やられそうになったもののこのまま帰るわけにもいかないので、友人の姿を探すが、どこも背広だらけでぱっと見つけることが出来ない。

 すると一人、こちらを振り向いた男がいる。髪色も派手ではないし、少しやつれているようだからすぐにはわからなかったが、その振り向いた男が彼であることに気付いた。

「あぁいたいた」

 僕自身の見た目も大きく変わっているから、わからないのだろう。少し困ったような表情をして僕の姿を見つめ、次の瞬間驚いたように、大学時代と変わらない元気な声を上げた。

「お前めちゃめちゃ変わったな!」

 この変化は僕にとっての「逃げ」であるために、最初に目につくのはわかってはいたが、こう大々的に言われると少し気が引ける。

「まあ変えたよね」

 と笑いながら、僕はバイクのメットで蒸れた顔を拭った。

「ご注文は……?」

 痺れを切らした店員が不機嫌そうに尋ねてきた。今来たのだからすぐに聞かなくてもいいのにという不満を店員にもわかるように、態度に出しながら、メニューを彼と見る。初めてくる店だから、どんな種類のドリンクがあるかもわからないし、居酒屋というのんびりするような場所で、そんな急かす必要はないだろう。

 これだから街の人間は、と心の中でこの店員を軽蔑しながら、じーっとメニューを見つめる。

「ああ、すいません。俺はビールで」

 このメニューの中で彼が一番頼まないだろうと思ったものを口にしたために、僕は驚きを隠せず、彼の顔を見た。

「なんだよ」

 突然見つめた僕も悪いが、彼の照れ隠しのような半笑いのリアクションがより一層この一瞬を気持ち悪いものにした。しかしそんなことはどうでも良い。彼はビールが苦手――いや嫌いなはずだった。

「ビール嫌いじゃなかった?」

 男でビールが飲めないというのが彼に言うことの出来る唯一の皮肉であったことを、彼自身も思い出したのだろう。過去を思い出し、懐かしそうに笑いながら、でも最後には少し寂しそうに「営業の性だな」と答える。

 こんな日本各地を旅しているプータローの僕と比べて、ちゃんと社会で生きている彼に対し、尊敬と憧れを抱く。そうだ、彼は取り敢えずナマと急いでいる店員のことすら気に掛けることが出来る出来た男なのだ。だというのに、僕はこの店員の態度の悪さにイラつき、少しでも時間をかけて選んでやろうとくだらない牛歩戦術で、自分の鬱憤を晴らしている。

「大変だね、サラリーマンは。あぁこっちは食べ物か。意外と飲み物の種類ないな。じゃあ僕はハイボールでいいや」

 その僕の態度に彼も気付いたようで、「全体の空気を読んでビールを頼む奴だったのにな」と、皮肉を言ってきた。

 あの時の僕は周りの目を気にしないと生きていけない奴だった。でもそんな情けない返事をしても仕方ないので、なるべくその言葉に食らってないように振舞って一言「浮世離れだね」と、返した。

「そうだよ、浮世離れ。日本中旅してるんだって?」

 突然連絡がきた手前、大体予想はついていたが、直球で聞かれるとやはり小っ恥ずかしい。

「二十四で自分探しなんてくだらないだろ?」

 自分を嘲る様に言うと、彼は思っていたものとは正反対のリアクションをする。

「いやいやそんなことないさ。自由って感じで憧れる」

 心の底からの言葉のようだった。しかしそれは都内のある程度の企業で働いていると言う余裕があるからこそ言うことの出来る言葉だ。面倒くさい仕事の合間に旅行に行くから楽しいのであって、その仕事が不安定である以上、その旅はどちらかと言えば現実と焦りに対する逃避行だ。

 だからこそ何もわかっていないその発言に少し僕は怒りを覚えて、語気が強くなる。

「憧れる? 僕はただの社会から見放された浮浪者だよ。寧ろ地に足付けてる君のほうが羨ましい」

「意外とさ、窮屈なもんだぜ? 接待接待接待。大学時代の先輩みたいなあんなフランクな感じは一切なしだ。乾杯」

 卓に届けられたグラスを手に、彼のビールのジョッキにそれを打ち付ける。それだけそのビールに不満があるなら、このグラスを思い切り打ち付けて互いのグラスを砕いてしまおうかと思ったが、一杯目でそれはやりすぎだろう。

「乾杯。それでも一定の所得と、普通っていう社会的地位が手に入るじゃないか」

「社会的地位? そんなのに何の意味があるんだよ。生きるのに必要か?」

 恐らく彼は大学時代もサークルの代表として、着々と日本で必要とされる地位を築いてきた。だから努力をしないと――努力をしてもその地位を手に入れることが出来ない僕の苦労なんて知る筈がないし、簡単に手に入るものだからその価値にだって気付いていない。

「同調圧力の日本では必要だよ」

 まるで一番の弱点を突かれたかのように、彼は先ほどまでの勢いを失い「そうかな」と小さくつぶやいた。

「そうだよ」

 理想の食い違いによって会話にブレーキがかかったことで気まずい空気が流れたところで彼は一度食事を頼むということで、気を遣ってくれた。


 それからサラリーマンのメリットデメリット、旅人のメリットデメリットについてすり合わせた後、日本一周についての話に話題は移っていった。

「なんで日本一周なんてしようとしたんだ?」

「日本にいるけど四十七都道府県全部行ったことがなかったからさ」

「景色なんて大体一緒だろ?」

 サークルの中の第一グループでよく海外旅行に行っていた彼には理解できないだろう。それこそ日本と日本の差において、日本と海外の差を引き合いに出されたら大体一緒に見えるに決まっているが、それを彼に説明しても伝わらないだろう。でも言われっぱなしも腹が立つので、何か良い言葉を選んで答える。

「海外好きとかは皆そう言うよ。でも良く見たら全然違う。たまに歩いている人の感じとか、生えている木の種類とかも少しずつ違う気がするよ」

「気がするかよ」

 日本人なんだから、もっと日本の魅力を探せばいいのにと言うとまた先程の様に言い合いの様になってしまう気がして、そう返しはしない。

「でもそういうのでいいんだ。自分だけでもその魅力がわかってればさ」

「お、今のなんか旅人っぽかった」

「茶化すなって。でも考えとかは変に偏っているんだろうなって思う」

「そうか? 周りにいないタイプだから話していて面白いぞ」

「それは偏ってるからなんだよ」

「そういうことか」

 前はもっと他人を自分の考えに沿わせるようなタイプだったのに、今はどんどんと僕の言葉に流されていく。昔はもっと我が強い感じだったが、何というか丸くなっている。荒削りなカリスマという感じだった彼が、社会人を経て他人に寄り添える人間になっていることに、彼の成長と、自分の停滞を強く実感した。僕は何とか彼を言いくるめようとしている。自分の考えの押し付けばかりで。

「なんか昔は大学一年生の女が飲んでいるような甘いやつばっか飲んでいたのに、ハイボールしか飲まないんだな」

 そんなことを考えていたからこそ、話題を変えてくれて有難いと思った僕はなんでハイボールを飲むようになったかを思い出す。

「ああ、健康志向ってやつ? なんかハイボールはカロリーゼロだっていうじゃん?」

 新たに届けられたハイボールをまたぐいと飲んで、そう言った。

「健康志向なやつは酒飲まねえんだよな」

「一時期太ってさ」

「ひょろがりオタク眼鏡で通ってたお前が?」

 今の見た目が初対面の人からしたら、信じられない過去だろう。見た目だけは黒歴史だと思う。

「田舎のコミュニティに好まれたら、毎日酒三昧なんだよ。しかも大抵日本酒とか麦とか。これが太る太る」

「あぁ、なんか漫画とかでそういうの見た覚えがあるわ。本当にそうなんだな」

「まぁ田舎だからね。カラオケも、映画もないから酒くらいしか暇つぶしの道具がないんだよ」

「だからハイボールに?」

「個人的に飲むときくらいは、な」

「楽しんでるな」

「酒は楽しむものだろ?」

 と、空けたグラスを机に置き、彼のグラスを見つめる。彼のグラスに入っているレモンサワーはまだ二杯目だった気がするが、調子が悪いのだろうか。楽しむものと言った手前、恐らくこの場で酒を楽しんでいるのは僕だけだ。

「接待ばかりだから、緊張とかで馬鹿みたいに酔っぱらうことはなくなったよ」

「公園の噴水に飛び込むことも?」

 なんだか小さくなった彼の姿がどうも寂しくて、かつて大学時代、僕の憧れだった彼の姿を彼にも思い出させようとした。

「久々にやるかぁ!」


 今と過去のギャップを哀しみながらも二人は、思い出に花を咲かせ、店員が驚くくらいの量を二人で空け、フラフラになりながら、居酒屋を後にした。


「さあこれからどうするか」

 僕がそう言うと、はっとしたように彼は目を輝かせながら尋ねてくる。

「あれ、まだ乗ってるのか?」

 彼がそう告げるのは僕が大学時代から乗っていたバイクのことだった。それをすぐに察した僕はふらつく足取りではありながら、停めているバイクの元へ彼を案内することにした。

「オタシャツで眼鏡のお前が唯一、輝いてた瞬間だったな」

「酷い言い方だよ。まあ振り返ってみたら、いじめとかにならなかったのはこいつのおかげかもしれない」

「馬鹿にしたりはするかもしれないが、いじめとかやるような奴らじゃないよ」

「流石代表、みんなへの信頼が違うね」

 バイク駐輪場に停まっているバイクのシートを触りながら、昔から変わっていないヘルメットをぽんっと彼に投げた。それから鍵を回して、エンジンをかけ、シートに跨る。

「様になってんじゃん。昔と比べてめちゃめちゃカッコいい」

「そんな感じで褒められると気持ち悪いな。メットつけて、乗れよ」

「え、お前」

 彼は驚いたような表情のまま、一時停止を押されたかのようにその動きを止めた。その衝撃から僕が何をしようとしているかは理解しているようだった。言い方は悪いが飲酒運転には慣れている。だから彼と心中するつもりなんて毛頭ないし、何より彼の社会への不満のようなものがこのバイクに乗れば少しでも軽くなるような気がしての、提案だった。

「死んだら会社に行かなくてもいい――」

 そんなことを彼から聞きたくはなかった。盛大にすっころんだらそれはそれで面白いかもなと元気に言う奴であったと言うのに、そんなことを口にする彼を前に僕も哀し気に返すことしかできない。

「東京の道だから気を付ける……けど、日常茶飯事さ」

「はっちゃけてもルールは守るやつだったのにな。変わるな」

 彼のしっかりとスリーピース揃ったスーツと、小汚い僕の姿を見比べて、やはり時間の経過を感じた。

「変わるさ」

 その言葉と同時に僕はアクセルを捻る。エンジンの駆動音と共に、太い二つのタイヤは回転を始め、すぐに僕たち二人を風へと導き始めた。

 久々にノーヘルでバイクに乗ると、開放感が凄まじい。頭の先から足の先まで風を感じるために僕は留めていた髪を解いた。へビィメタルバンドの様に髪の毛を暴れさせながら、体に溜まったアルコールを吹き飛ばすようにスピードを上げていく。エンジン音のせいで全くと言っていいほど周りの音は聞こえないし、彼とも話すことはできないが、背中から楽しんでいるのはとてもよくわかった。

「あっ! 赤だぞ!」

 と、後ろからそんな声が聞こえたが、明らかに車通りが少ないこの道で止まる方がもったいない。そんな小さいことを気にするようになった彼の丸くなった性格がどうにもおかしくて僕は心の底から笑った。

「こんな時間だから大丈夫だよ! 止まっているほうがもったいない! しかも今死んだっていいんだろ!」

 死なんてものは、意外と訪れない。それどころか自分から死ねるなんて言うような奴には、それなりの恐怖を刻み込ませて、もう二度とそんなことを言えないようにしてやろうという魂胆だった。


 腹を重く震わせるエンジンをかき鳴らしながら、二人は闇夜を駆け抜けていく。


 もうかれこれ一時間近く走ったところだっただろうか。街灯も減り始め、住宅も草木に変わり始めたころ、もうそろそろ綺麗に星が見える公園に辿り着くくらいの時、後ろの彼が僕の肩を叩いた。そこで僕は赤信号ですらかけることのなかったブレーキをかけ、側道に停車する。

「どうした?」

「悪いけどさ。そろそろ帰らねえと。明日大事な案件があるんだ」

 そんなことを言いながらヘルメットを取った彼の顔をまじまじと見て僕は今日一番かと思える声で笑った。

「なんだよ」

「昔は、早く帰ろうとする僕を君が引き留めていたのに」

 そんなことを言う僕を横目に彼は、笑顔なんて作れるはずもなく小さくつぶやく。

「大学時代は良かったな」

「人は変わるね」

 どうせそんな言葉が出てくるだろうと思った僕は間髪入れずに、そう告げる。

「変わるさ。それでもこうやって集まってる」

「臭いことを言う癖は変わらない」

「うるせえな」

 車通りも、人通りもない静かな国道の脇で、二人の男の笑い声が響いた。

「じゃあ帰るから、メット被れよ」

「いや、タクシー呼ぶよ」

「馬鹿言うな。送ってく。五秒数えるうちに被らなかったら、被ってなくても走り出すからな」

 少しエンジンをふかしたことで、焦り驚いている彼の顔があまりにも面白く僕はもう一度強くアクセルを捻る。

 あの様子だと本当に早く帰りたいようなので、先程よりも早く。しかし警察に捕まってもっと時間がかかるなんてことはない様に、無鉄砲な走りはせず、彼の家への帰路を急ぐ。


 家の前に着いたと言うのに下りない彼を心配して僕は声を掛ける。

「どうした、ついたぞ」

 僕のその声にはっとした彼は慌ててバイクから降りた。

「送ってくれてありがとな」

「いや楽しかったよ」

「俺もだ――」

 何か名残惜しそうにしているが、もう時間も遅いと思い、僕は様々な旅先で出会った人たちに言われてきた言葉を口にする。

「じゃ、また」

「また」

 その言葉を聞いた僕は先ほどまで彼が被っていた酒臭いヘルメットを被り、少し笑いながら彼に「酒臭い」と文句を言い、アクセルを捻る。

「また……か」

「あいつと飲みに行きたいし、また少し関東を拠点にしてみるかね」

 僕はそんなことをつぶやきながら、ヘルメットのシールドを開け、大きく息を吸い込む。冷たく頬を撫でる風を身に受けながら、走り始めたバイクはまだまだ大きな音を鳴らし続けるだろう。東京の空じゃあ星はあまり見えない。だから星がきれいに見える場所を目指して。これが僕の日常。


 大学時代の僕からすると、変な格好だと笑われるかもしれない。でもそれでもこれは僕が選んだ道だ。だからまず僕が、僕自身を愛することから始めてみよう。

 また。それは様々な人から貰った大切な言葉だ。それを次は僕が与えていく。




 全く違う日常の二人が交差した瞬間――二人の日常は未だ輝きを辞めることを知らない。

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