「しにん」

結騎 了

#365日ショートショート 147

「なあ、ばあさんや。昨日の晩飯はなんだったかな」

 老人は空虚に話しかけた。コタツでみかんを食べながら、まるでその横に生涯の伴侶が座っているように。

「ほぅら、お父さん。なにを言ってるんですか」

 台所から娘が駆けつけ、相手をする。

「お母さんは昨年、癌で亡くなったでしょう。もう、お父さんったら……」

 ため息をつきながら、机上に散らばったみかんの皮をかき集めた。よいしょっ、と立ち上がり、それをゴミ箱に捨てに行く。

「なあ、ばあさんや。あいつにはお前がえんのかね」

「だから何度もそう言っているでしょう」

 空虚は答えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「しにん」 結騎 了 @slinky_dog_s11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ