第9話 ミヤノの決断
あれからひと月ほど経って、ミーヤは目覚めて私は居場所を無くしていた。
「はぁ……」
マクライア家の裏庭の隅っこで草をむしる。別に草むしりをしてるわけじゃなく、単にいじけてるだけだ。
「異世界転生から異世界転移になっちゃったわ……」
色々と思うところはあるけど、やっぱりミーヤのままクハル王子の花嫁になって勝ち組になっとくんだったかなー。いや、でもさすがにそんな最低なことは……。
「でももったいなかったなぁ〜!」
「なにがもったいなかったんですか?」
「そりゃあ、お姫さうわぁぁぁ!?」
いきなり現れたミーヤにびっくりして素っ頓狂な声を出してしまった。
「もう驚かさないでよぉ〜! 心臓止まるかと思ったわ!」
「フフフ、ごめんね。家の人に訊ねたらここだろうって聞いたから」
ミーヤが目覚めると、すぐに仲良くなった。まるで旧友と再開したかのように相性ピッタリだったのだ。
さすがに家の中では敬語使ったりもするけど、二人きりの時には思いっきり砕けた。
「結局なんだったんだろね?」
「え?」
「ミーヤの理想」
魔法具によって引き出されたミーヤの力、“聖女の施し”。理想を実現化してしまうというチート能力。アシュレイ公爵が狙っていたけど、実は使用回数一回だけで、すでに使われていたため公爵の目論見は水の泡となった。
ところが、ミーヤは無自覚に使っていたらしく何に使ったか覚えてないらしい。ペンダントは今でも大切に持っている。
「さぁ……でもきっと、素敵な理想だといいな」
「そうだね、ミーヤなら変なことに使わないだろうし」
「変なことって?」
「んー、世界征服とか?」
「あはは! なにそれー」
「いやー、私って発想が貧困なのよね……」
「あー、なんか分かるかも」
「えっ、そうなの?」
「なんとなくね。ミヤノは考えるのとか苦手そうだし」
「あ〜、それは当たってるわ」
「フフ。……ミヤノは、やっぱりクハル王子の所へ行くの?」
「えっ!? なんで急に?」
「だって、クハル王子はミヤノを花嫁にするってずっと言ってるよ?」
「そうなの?」
「うん。ミヤノが会いたくないからって面会謝絶してからもずーっと」
「……」
「自信持てない?」
「そりゃあねー、ミーヤみたいな美人だったら釣り合うだろうけど」
「そうかなぁ、私はミヤノお似合いだと思うけど」
「そう?」
「うん。それに、クハル王子の話題になると、なんだかんだミーヤ楽しそうだもん」
「えぇ……そうなの?」
「知らぬは本人ばかりね、フフ」
「うーん……いつまでも居候するわけにもいかないし、当たって砕けてみようかな?」
「居候なんて、私はずーっと一緒に暮らしたいわ」
「本当に?」
「ええ。なんならミヤノ専属の侍女を付けるわよ?」
「専属メイドさんかぁ」
それはそれで夢ではある。しかもミーヤ公認の居候だ。これほど素晴らしいニートライフがあるだろうか?
「まっ、とりあえずはクハルの問題を片付けるか」
* * *
「ミヤノ!!」
皆で夜に会食を、という理由付けでクハルを呼び出した私は、久しぶりにクハルと対面した。
「いやー久しぶりじゃないか! 元気になったか!?」
「あはは……クハルのテンション変わらないね」
「そうか? まあ僕は僕だからな!」
「……」
無邪気に笑うクハルは、久しぶりに見たからなのか、すごく可愛く見えた。様々なハードルをクリアした今なら私が「はい」と言えば結婚できてしまう。
結婚してお姫様になるか、このまま約束された極楽ニート生活を満喫するか、異世界人生の分岐点だ。
「クハル、真面目に答えて欲しいんだけども」
「ん? なんだい改まって?」
「結婚のことよ」
「ミヤノ……」
まさか私から結婚についての話が出てくると思ってなかったのか、一瞬面食らうものの、クハルも少し真顔になる。
「クハルは前に、ミーヤじゃなくて私と結婚したいと言ってくれたよね?」
「ああ」
「それは、今目の前にいる私にも同じことを言える?」
「……」
私の容姿はハッキリ言って、良くて中の下だ。自分では下の中くらいと思ってる。ぶっちゃけミーヤとは月とスッポンだ。お姫様のイメージには到底不釣り合いだし、そもそも器じゃない。
だからこそ、オノルさんやミーヤ、皆がいる目の前でハッキリさせておきたい。断られたら極楽ニート生活をするだけだから、私にとってはどちらに転んでも問題はない。
……なんだかすごくズルい女だな、私って。
「なにを言ってるんだい? 当たり前じゃないか。僕はミヤノが好きだよ。ここにいるミヤノが! 僕はミヤノと結婚したいんだ!」
「え……?」
ここまでバカ正直にというか、素直に言われると、それはそれでめちゃくちゃ恥ずかしい。
「あ、また
「クハル王子、ミヤノは恥ずかしがってるのよ」
「恥ずかしい?」
「ええ。皆のいる前で大声で堂々と言われたんですもの。まあ策士策に溺れるってことかしら」
ミーヤだけがフフフと笑っている。それはそうだ、この状況が分かるのはミーヤだけなのだから。
「ミヤノ、僕とは恥ずかしいのか?」
またこの天然王子は的外れな解釈して……。
「ミヤ――」
「ああもう!!」
いきなり大声を上げたものだから、ミーヤ以外全員がビクッと驚く。
「いいわ、結婚してあげる!」
「ほ、本当か!?」
「ええ、女に二言はないわ!」
「ミヤノ、男らしいわ!」
「私は女よ!」
「オホン」
オノルさんの咳払いでシンとする。
「では、ミヤノはクハル王子と結婚する意思ありとして、正式に婚約とする。良いかな?」
「はい。……オノルさん、今まで本当にありがとうございました」
心の底から、オノルさんには感謝しかない。深々とお辞儀した。
「いやいや、こちらこそ本当にありがとう。こんな喜ばしい日が来ようとはな。皆の者! 我が娘ミヤノは、魔法国家マーシュラードの第3王子、クハル・マーシュラード様と正式に婚約が決まった!」
オノルさんが宣言すると、途端に割れんばかりの大歓声が上がった。
「ははは! 見ろミヤノ! 皆が僕らを祝ってくれてるぞ!」
「……うん」
止めどなく涙が溢れてくる。本当に私がお姫様になるんだ。
「クハル!」
「おわっ!?」
クハルに飛びつくと、より一層の歓声が上がった。
* * *
――数日後。
私の希望で結婚式はマクライア家の庭で執り行われた。
異世界転生してから早数ヶ月。色々とあったのに、あっという間だった。結局ミーヤの叶えた理想がなにかは分からなかったけど、それはきっと素敵なことに違いない。
「ミヤノ、時々でいいから連絡してね」
「なに言ってるのミーヤ、魔法具で毎日でも連絡しちゃうよ」
あはは! と笑い合う。前世ではいなかったけど、きっとこれが親友というものなのだろう。
「王子! 準備できましたよ!」
移動式城塞『ガルガンド』から円盤が降ってきた。クハルは迷いなく乗り「さあ!」と手を差し伸べる。乗れということらしい。
「……」
振り返って、マクライア家の人々に向かい深々と頭を下げた。
「本当に、お世話になりました!!」
顔が見えないくらい深く頭を下げたのは、感謝の意だけじゃない。見られたくない時に限って溢れる涙を隠すためだ。
「また、いつでも遊びに来なさい。ミヤノはマクライア家の――私の自慢で大切な娘だよ」
「ぅ、……っ!」
「いってらっしゃい」
「……いっ、……いって……、きます……!」
これ以上はもう無理だ。顔を上げると同時にクハルの手を取り『ガルガンド』へ乗り込む。
「皆ありがとう! 必ずミヤノとまた戻って来るよ!」
「クハル……」
「ははは! マクライア家も我が家族の一員だ! そうだろう?」
「うん……!」
その後、無事にお姫様となった私は相変わらずクハルに振り回される日々を送ることになる。そしてミーヤと再会した時に思わぬ事実が発覚したけど、それは私たちだけの秘密――。
fin.
偽りの王子 そらり@月宮悠人 @magica317
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近況や活動報告やエッセイ的な何か。/そらり@月宮悠人
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
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