ねえ、好きなんだけど/ねえ、一緒に死なない

DITinoue(上楽竜文)

ねえ・・・・・。

「ねえ、好きなんだけど」

いきなり、そう告げられた中学三年、小嶋純也こじまじゅんやは狼狽えていた。だって、その相手である北島華きたじまはなは全く面識がないから。同じクラスメイトだってことぐらいの面識で、喋ったことは数回あるだけ。そうやって、狼狽えてたら次の言葉が襲ってきた。


「ねえ、一緒に死なない?」

嫌だー!!死にたくないよー!!死ぬなら一人で死ねよー!!って・・・・・あ、僕ヤバいこと言ってた。

ひとまず、僕はひたすら校庭の花壇に立ってオロオロしている。なんか告白され、死なないって誘われて、みんながこっちを凝視していて・・・・・あぁっ!やめろ、北島!バカっ!!


 一回、僕は校庭の花壇ではヤバいと思って、屋上に来た。一応、北島華というやべぇ奴が来たということで、さっきまでいた女子生徒は怪訝な顔をしながら席を譲ってくれた。ごめん、本当に!

「はい、というわけであなたなんも分かってないようね」

「・・・・・当たり前だろ」

「そんなわけないのに。一度、赤紙を送ったでしょ?」


そういえば、送られた。なんか、家のポストに入っていた赤い二つ折りの紙。開けてみると、「召集令状 2時32分に校庭の花壇に来なさい」と。

あ、召集令状ってのは、戦争の時に一般人に兵隊として戦いに行きなさいっていうお届け物のやつね。ついこの前勉強したばっかだから。


「で、今から飛び降りますよ」

「へ。ダメだ、絶対に飛び降りちゃあだめだ」

「なぜ。やっと一緒に死ねる人がいたと思ったのによ」

そう、この北島はだいぶ口悪いく男っぽいやつなのだ。


「何でお前は死にたいんだよ。命ってもんは軽くないんだ」

いいこと言うなぁ、僕。

「でも、命ってもんはロウソクみたいに果かないもんだ」

返された。確かにそうかもしれんが。

「わざわざ、生きる必要ってあるの?本人が苦しんでいて死にたいなら、それを止めることはできないんじゃないの」

「いや、生きていたら必ずいいことがある」

「ない。少なくとも、その“いいこと”がある日まで、私は苦しまなきゃいけないんでしょ?」

う、それはそうだ。

「でも、絶対にやめろ!!僕は北島にそんなことを絶対にさせない。絶対にやらせない」

「日本国憲法13条に自己決定権について書いてあるのよ。だから、私がそうするって決めたことを止めることはできない」

憲法を使うとかないだろ・・・・・。


「で、なんで私が死にたいかって言ったらこんなことがあるの」

そういうと、彼女は右目にかかっている長い髪をめくった。そこには、大きなあざがあった。

「これ、どうしたんだ?」

「家族、親戚、学校の同級生・・・・・色んな人に暴力フラれた結果」

そういうと、北島は腕、手首、ひじ、膝、足の指・・・・・様々なところを見せてきた。

——ひどい傷だった。


「で、この中学入ったら暴力されたらされ返すって決めたんだよ。で、案の定やられる。やられたらやり返す。で、やったら教師が来て、謝れ謝れ。で、それでも自分は悪くないって言い張ったら、教師が暴力。おかしい」

「・・・・・」

それは、変だ。北島は悪くない。


だが・・・・・。

「ところで、なんでそんなに暴力振られるんだ?」

「・・・・・元々、私は女として生まれたけど、心は男子だったから、ズボン掃いたりサッカーしたり、男子っぽいことをしてた。で、いじめの的になる。こいつ、変なやつって。それから、私は女に恋をした。そしたら、その相手は『うわ、こいつキモ』って。GLは許されなかった。それどころか、その女子は人気者だったから、彼女が好きな男子は暴力暴力。それで、もう私は腐った。男女の垣根はSDGsとかでいろいろ訴えられてるけど、未だに解決しない。それどころか、酷くなってきてる。私はそんな世界で生きられない・・・・・」

そういうと、北島は泣き出してしまった。


「で、ところでなんで僕なんだ?」

「簡単なこと。あなたが好きだったから。そして、見透かしているから」

というと、北島は近づいてきて、僕の腕に手を置いた。

「あなたも、やられてるんでしょ?」

「・・・・・ああ」

僕は、実は男が好きだった。唐木剛守からきごうしゅという野球少年がかっこよくって、恋をしていた。だが、気持ち悪いとばかり言われた。家族に相談すると父に殴られた。


――僕と彼女は、やけに似ていた。


「だから、いい?」

「・・・・・ああ」

「分かって、私は無駄な死はしない。ジェンダー平等を訴えるための死だから」

「・・・・・なんか書かないか?」

「いいよ、もう校長宛の手紙書いたから」

「・・・・・そうか」

二人は、あまり人が通らない裏庭側に向かった。屋上から見ると、やはり高い。コンクリートのところを探す。通路がそうだった。


――僕たちは、フェンスを飛び越えた。

一直線に落ちていく。そして、地面が見えたと思うと、バキッという鈍い音。首の骨が折れたみたいだ。彼女は・・・・・そんなことを考える暇などなく、小嶋順也は静かに眠った。


 空の上から、俺は北島華を見守っていた。僕は死んだ。だが、北島は奇跡的に生き延びた。地面がたまたま芝生で、たまたまきれいに受け身を取れたから。彼女はまだ死にたかったらしいが、僕が死んだのを知ると、僕の分まで生きなければと思ったらしい。そのまま、彼女は生きてジェンダー平等の必要性を訴えた。それは実り、「ジェンダーの輪」を立ち上げたのだ。そして、憲法を変えようとまでしている。SDGs、「ジェンダー平等を実現しよう」の実現は果たしていつか。2030年も、そろそろ終わろうとしている。

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ねえ、好きなんだけど/ねえ、一緒に死なない DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555

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