第36話 赤朱空拳と丁丁発棘
「……なるほど。俺は
同時に白いケモノも加勢し、一対二の構図を作る。
相変わらず
「
ここから広がって見えるだろう関東平野に届けとばかりに
彼女の注意を逸らし、まず赤いケモノを倒す。
そんな
今朝、別れたばかりなのに、まだ数時間しか経っていないのに、会ったら謝りたいことがたくさんあって、だからどうしても会いたかったのに。
「なんでお前は俺を見ないんだ!」
(まるで道化なのか、俺ばかりがお前を求めていたのか?)
(お前はなんでこんなところにいて、こんな男と戦ってる?)
(なんでナベワリの赤い魔獣と共闘してる?)
「俺を見ろ!
神具であるブーツなら、その距離は一瞬で縮まるはずだ。
だが、
しかも、
脅威ですらない羽虫を払いのけるように、それでもその力は
耐火コートがボロボロに炭化し、辛うじて隊服の防御機能が上回るが、激しい熱は露出した素肌を棘のように刺す。
脅威として認めさせ、囮になるどころか、足手まといにしかならない。
二頭と二人の戦いは続いている。
そのバランスを崩すには、
そう、
だが、
赤い魔獣と対峙するならまだしも、
彼女の放つ赤い炎と
それは、彼女と命のやり取りをするということ。
これまで辛うじて拮抗していたバランスが崩れる。
白いケモノが大きく吹き飛ばされる。
ケモノはその途中、空中で姿が変わった。
(女の子?)
「
消耗を回復するとばかりに、
「まいったな。他にもプランがないこともないが、無理するメリットがない」
「その子は、魔獣なんですか? 大丈夫なんですか?」
「君も、この子を心配してくれるのか? 二人そろって、お人好しなんだな」
「
「こいつが山核の外で遊んでいて、見つかって、山核に逃げるのを彼女が心配して追いかけたんだ。ご丁寧に山核の中までな。そこで魔獣に襲われ、俺が助けた。大氾濫が始まりそうだったんでな、俺のセーフハウスで休ませて、氾濫に合わせここまで同行させた。そしたら、ああなった」
「あなたの目的は?」
「氾濫に合わせてナベワリの山核を狙ったんだがな、最後の最後で、保護した少女が魔獣と共闘なんて、俺も焼きが回ったかな」
「あなたも、魔獣と共闘してるのに?」
「使役の仕組みが違うだろ? 俺は一応人間側の人間だぞ?」
「
「今は山核側だ。現実を見ろ」
「どうすれば……」
「ヨーコがこんな状態なんで、俺は降りるよ」
「そんな!」
「あのな、俺がやってもいいが、その場合あの子の命の保証はできない。魔獣として処理するってことなんだぞ?」
「手を貸してはもらえないんですか?」
「言っておくが、立場が違う。俺はその気になれば君もあの子も倒し、山核だって手に入れられる。それをしないのは、二人ともヨーコを案じてくれたからだ。だから俺は手を引く。あとはお前さんの仕事だ。救助隊なんだろ? ミョウギの解放者」
「あなたはなんでそれを知ってるんです?」
「さあな。三年以上も山核に関わってると、いろんな情報が入ってくるのさ」
「
「一つ助言だ。お前さんの武具なら、あの魔獣を倒し、彼女の技能も無効化できるかもな。ただ、それ以上はお前と彼女の絆次第だ」
「それなら、一つお願いがあります。その先に俺の上司がいます。一人で戦ってます。その人を助けてやってください」
「……分かった。無理やりにでも緊急下山させておこう」
彼女はじっとこちらを見ていたが、それは
一定の距離を侵害すれば迎撃する。
そんな意思を湛えた目だ。
赤い狼は
それはずっと昔から主に従う下僕のような佇まいに見えた。
「やっと二人きりになったな。もういいかげん帰ろうぜ。みんな心配してる」
距離は二十メートルほどか。
目を凝らすと、
そこにナベワリの山核がある。
だが、解放を望んだ時、魔獣はどうなった?
ミョウギでは一瞬で山核化が解け、魔獣も魔樹も消え去った。
今の
もし、彼女が魔獣に取り込まれているのだとしたら、ナベワリの守護魔獣として登録でもされているのなら、それは彼女を失う可能性を孕む。
(ならば)
赤い狼を倒し、
どうやればいいかなんて分からない。
それでも、
「顕現せよ、
両腕の痣に触れると、金色の腕輪が淡く光る。
瞬間、脅威度の判定が行われたのか、赤い狼が音もなく跳躍してくる。
溢れんばかりの高熱の空気を纏って。
質量だけじゃない、熱も炎も受け止められなければ、
両腕の武具から広がった金色の力場が、熱と蒸気と炎を飛散させ、狼の爪を受ける。
同時に力を解放し、狼を大きく吹き飛ばす。
空中で姿勢を整えた狼が、
(次は、同時に来る!)
武具を平行に並べ力を放って迎え撃つ。
そこに狼の咆哮。大きく開いた口の中には鋭い歯が並んでいる。
それは捕食のためじゃない、相手を滅するためだけの牙だ。
「なにくそっ!」
左足で大地を捉え、伸ばした右足を魔獣の下顎に突き入れる。
だらしなく開いた顎を閉ざしながら、その反力を使い後方に飛ぶ。
ブーツのアシストにより転倒は避けられたが、また距離が開く。
「ずいぶんといいコンビだな」
中距離攻撃の
それまでも
いや、
彼は、言わずと知れた例の男だろう。
山核を解放したタイミングは
だとすれば、彼は
『お前と彼女の絆次第だ』
ならば、
=========
神山と共闘する開に、百合香は反応を示さない。
そんな中、ヨーコが倒れる。神山は途端に興味をなくし、後始末を開に託し山頂を去って行く。開は武具を顕現させ先に魔獣と対峙するが、向き合うのは百合香であると悟る。
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