第11話 深夜の会合(前)
「いらっしゃい、どうぞ」
今日の彼女はメガネをかけていなかった。
「……こんばんは、お邪魔します」
促され、殺風景な部屋に入ると、案の定いつもの位置に、いつも通りのメガネをかけた
「遅くに悪いな」
「ホント、ごめんね。いきなりで」
「あ、いえ、驚きはしましたけど、俺もお会いしたかったので」
夕食前、
どんな要件ですか?
と送っても、それ以降返事はなかった。
夕食後、こっそり
「ついでにこれを持って行ってくれ」と以前にお使いで持ち帰った布製のトートバッグを渡されながら説明を受ける。
「それとな、夜だから家の前まで車で上がれるぞ。イカオの駐車場から少し下りた先にロープウェイ駅へ向かう十字路があって、夜間は通れるようになってるんだ」
どうせ詳細を訪ねても回答はないのだろうと思いながら隊長と別れ、22時過ぎまで自室でいろいろと考えながら過ごしていた。
私服に着替え、そろそろ出かけようとしたころ、
そこには、
「あの、まずはお礼を言わせてください」
お茶が入るまでの時間は沈黙で、ここに至るまでの回想をしていた
「お礼?」
「いただいた薬で、父を治していただきました」
「……ああ、あれ、効いたか?」
「三年以上昏睡していた患者が元気に起き上がりました」
「ドロップの三等級回復薬だったんだが、使いどころがなくて死蔵してたヤツだから気にしなくていいぞ」
あれで三等級ということは、特級になるとどうなってしまうのか、また、三等級であっても、あれだけの効果が生まれることに
「それでも、ありがとうございました」
「キミは、救助隊を辞めずに済みそうか?」
「はい。これでしばらくは救助隊として集中できます」と
「
「無茶には程遠いですね。いつも冷静で、安全マージンもたっぷりとっています。でも装備が優秀なおかげでたまに油断してしまうのは事実です。今日も、今日から新人が二人入ってきたんですが、ずっと二人で連携していたこともあって、新人を危険に晒してしまいました」
「危険といっても隊服を着ていれば怪我はしないだろ?」
「あ、そうですね、隊服のおかげです……」
夕方の隊長や副長への報告でも、傷跡が無い以上、怪我はなかったとしか言いようがなかったからだ。
「まあ、新人同士の連携はこれからとして、少なくともキミと
「……できる、と言いたいところですが、あの時の熊には、対応できる自信がありません」
俺の訓練所はどうだ?
武具の力を存分に使ってやっと倒せた相手だ。
現行の装備では、あれに勝つどころか戦うという判断にすら至れないと思っている。
「もっと、強い武器が必要だと?」
「
「おいおい、救助隊の隊員が救助対象に個人名を挙げるなよ」
「いえ、俺がいま救助隊をやっていられるのは、彼女のおかげでもあります。だからまず彼女を守ることを第一に考えてます。他は全部ついでです」
それでも、全ての人を助ける。より、よほど健全な行動規範であると思えていた。
「ついで、かよ」
「だから、お願いです。俺の武具をまた使えるようにしてもらえませんか」
彼らにどんな用があるのか分からなかったが、一人で来る機会だからこそ、
あの時、枯渇したCPが少しだけ戻ったのは、
武具のこと。
山核の管理者が取得するCPのこと。
そして、
それらを踏まえ
「武具、ねぇ」
「ほら、山際くんも飲んで」
「
「魔核?」
「なんだ、聞いてなかったのか?」
拡張バッグに何が入っているのか疑問にも思わなかった
「それが、装備の代価ってことですか?」
本来、山核で確保された魔核は正規ルートで買い上げられ、それは様々な企業や研究機関などに送られている。
等級によっては数千万の値が付いているという話もあった。
だが、公表されている等級や属性以外のものは、売却するルートはおろか、誰に相談できるものでもなかった。
例えば、金色の魔核など。
「なるほど、俺たちが創る装備の代金だと考えたわけだ。まあ、間違っちゃいないが、三、四等級では俺たちの本気の装備は創れない。せいぜいがトレッキングポールくらいさ」
「……本気の装備?」
「キミは、俺たちがどんな力を持っていると思ってる?」
ここから先は、戻れない。
「……ハルナの山核管理者であり、技能“道具設計”を持っている」
「概ねその理解でいいが、持っているのは“技能”じゃない“職能”だ」
「職能?」
もちろん聞いたことはある。
入隊試験でも出るくらいの既知の情報だ。
ただ、そういった概念を知っていることと、それが実際にどういったものであるのかという理解には溝があり、その深さや距離は計り知れない。
「簡単に言うと、一級以上の魔核を触媒にして神具を創れる」
「……神具?」
その意味を持つ語句が当てはまるまで、
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・開は真理と卓磨に呼び出され、深夜、一人で物部設計事務所に訪れる。
隊長に預かった魔核を見て、それが彼らの装備の元になっていると理解した開は、過去に手に入れた魔核と引き換えに、使用不能になっている武具をなんとかしてほしいと卓磨に願う。
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