第2話 訓練の日々
「ところでこのカードって無くしたらどうなるんですか?」
ソウマ山での訓練から帰還した登山口で、討伐記録を眺めていた
「除隊だな」
「厳罰ね」
「夕飯抜きよ」
「再発行してもらえるよ」
「再発行ですか……この、いろんな記録とかは?」
「ネットと同じようなものみたいだよ。カードはただの端末で、山核に関わる情報の全てはクラウドみたいな感じでどこかに保存されているらしいよ」
「まあその通りなんだがな、実際問題、紛失届けやら始末書やら再発行申請書やら手続きが面倒なんでな、無くすんじゃねえぞ?」
「そ、それはもちろん。でも、俺たちの場合、これをもらったのって
「そういう安易な考えはどうかと思うな。それに今回みたいにしばらく連絡が取れない時はどうするの?」
先日訪れようとした
『あそこは出かける時、建物を隠蔽するから見つけられないぞ。帰って来るまで待つんだな』
実際に家を見つけられない体験をしていなければ、隠蔽などと言われても納得できなかったが、そもそも双子山の山頂で、気配遮断コートなるモノを見ていた二人は、いろんな疑問や理解を放り投げた。
その上で、彼らが置かれている立場や、要人であることを自覚して対策を取っていることに感心していた。
ただ、だからと言って彼らに何かを強請るとか、要求をするとか、便宜を図ってもらいたいとかは、まったく感じていなかった……とまでは言わないものの、それでも過度な期待は考えていない。
また、話せる範囲で構わないからいろんなことを聞きたかったし、
(
隊長に、どこかの山にでも潜ってるんだろと笑われた
入隊するまで、数か月に一度しか会わない存在だったが、自身がセイバーになったことと、たくさんの秘密の共有を得て近づいた関係だからこそ、二人の安否が気になっていた。
◆
宿舎までの車中、隊長が、そう言えばと話し出す。
「先日の大作戦でもカード紛失者がいたよな。
「ええ、いましたね」
「ああ、そうか。再発行や討伐記録なんかより、山核内でカードを無くすと緊急下山が使えないんですね!」
そのやりとりでハッとした
「まあできないな」
「それって、カードを無くして死んじゃったらどうなるんですか?」
隊長の解に
「カードが手元に無くても、死ねばグレー表記になるよ。所有者の位置や生存といった情報は、管理側には手に取るように分かるらしいからな」
「……位置が分かる? でも、この前の試験のとき、私たちはカードを持っていなかったですけど」
隊長の説明に、先日の双子山での最終試験を思い出した
魔獣の配置や
「
隊長の解説に、生体情報の取得ってお茶を飲んだときかな? と
「それにしても魔獣の攻撃はきつかったです。普通に死ぬかと思いましたから」
「いや、普通に死んでたかもしれんぞ?」
「はっ?」
「あー、管理者って、魔獣一匹一匹に対して行動指示ができるとか思ってるのか?」
「違うんですか?」
「そんな芸当ができれば、ハルナエリアで死者は出んだろう? それともこれまでの犠牲者は、
先日の登頂隊と狩猟隊の大作戦でも死者は出なかったと聞いていたから、
さらに言えば、山核内での犠牲者はカードの所持者のみがカウントされていて、違法入山者がどれだけ犠牲になっているかは分からない。
「詳細は
彼らの管理内であっても人は死ぬという事実と、先日の試験でも死んでいたかもしれないという実感によって沈黙する新人二人に、
二人ももちろんそれはよく分かっているが、死んでいたかもしれないという事実はやはり大きいものだ。
「それってどこまで知られているんですか?」
「どうだろうな。上はもちろん知ってるだろうし、
「じゃあ、先日の登頂隊と狩猟隊の作戦というのは、最初から失敗させるつもりだったってことですか?」
隊長の説明に対し、
「え?
「そりゃあ、
登頂隊や狩猟隊の面々が、カモン岳の山頂で
「端っから全滅させる予定だったみたいだぞ。しばらくはハルナに手を出さず、他の山に向かうように誘導するんだと」
「……犠牲者がでなくて良かった」
そんな裏事情があったからこそ、その事実を知ったからこそ、
「そのために僕らも万全の体制で待機してたし、救助もできたからね」
総力戦と位置付けられ、セイバーは全隊から二人ずつ召集されていた。
「そうそう、その
隊長は当初の話題を思い出しそう言った。
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・山核内で訓練を始めた開と百合香は、カードの効果や最終試験の真実に驚きを隠せない。また、ハルナの管理者である卓磨たちについて隊長たちの考えを聞く。
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