星が落ちてきた日 30日チャレンジ

 星が落ちてきた。

 河川敷に寝そべって天体観測としゃれこんでいたら、目の前に。

 星は「何か一つ願いを叶えてやる」って言う。

 だが、願いと呼べるほど大それた望みなどない。「うるさい」と言って、家に帰ろうと軽トラックに乗り込む。下手な好奇心なんて起こすんじゃなかった。

 星はまだ「何か一つ叶えないといけない」とうるさい。

 「じゃ、他を当たるんだな」と突っぱねても「でも、あなたじゃないといけないのです」と言って引かない。

 ラジオ代わりに使っているスマホから夏風に似た涼やかで熱心な歌声が聞こえる。

 どうか届いてくれと願っている。

 「ばかばかしい」鼻を鳴らして、運転を続ける。

 ウインカーを出して左折。人気のない夜中の河川敷脇だから、目視はどうしてもおろそかになる。


――衝撃。全身を突き抜ける轟音。回る目。熱さ。冷たさ。静寂。


 目を開く。

 暗がりの中だが、車ごとひっくり返っているのが分かった。何とぶつかったのかは分からない。車だったらすぐに相手の無事を確かめて、保険会社に連絡を――、と思うのに、体が動かない。動けない。


「願いを叶えましょう。たった一つだけ、お願い事を叶えましょう」


 星は、自分が現状の一員だなんて思ってもいない様子でくふくふ笑う。

 こいつは悪鬼か、はたまた天使か。


「……それは、助けてくれって願いでもか?」

「それは行けません。死の運命は平等ですから」

「死の運命、ねぇ」


 ひっくり返った体が動かない。熱くて、寒くて、震えて、寒い。

 画面の割れたスマホがすぐ近くに落ちていて、曲の最後のサビを歌いあげている。

 諦めたように、笑った。


「ならよ、娘が達者でやるようにしてくれ。この、これ、この曲。タイトル分かんねぇけど、アイドルになるんだって飛び出して行っちまいやがった。そんな、娘だが、体健康で、無茶しねぇように」

「承りました」


 星はそう言って、呆気なく空へ上った。

 一人きり、静寂の中で黒くなっていく視界を眺めている。目を閉じて、曲の終わりに耳を澄ませる。――音が、なくなった。













 気が付けば、星になって空にあった。


「一つ、誰かの願いを叶えなさい。一人、今日星になる相手の願いを叶えてやりなさい。そうしてあなたたちは生まれ変わるの。償って、生まれ変わるの」


 空の上で、声がした。

 目も鼻も耳もないのだが、不思議と頭に響くような声は理解ができた。

 尾を引いて、次々地上へ降っていく。

 俺も、降る。


「よぉ、何か一つ、願いを叶えに来た」

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練習用小話集 一華凛≒フェヌグリーク @suzumegi

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