桜の木

あんどこいぢ

桜の木

私もあの桜の木

知っていたのです

貴女が綺麗だったと教えてくれた

あの桜の木

すぐそこの公園の木ですから

別に知っていたって

なんの自慢にもなりはしないのですが

貴女にはそんなことさえ知らない人間だと

思われてしまっているような気がして


もう十余年ほど前

朝食の買い出しに出掛けました

自販機での酒煙草の販売が

夜十一時から翌朝五時まで制限されていた

そんな時代の話です

夜通し起きていて

朝五時になったら酒を買いにいく

煙草を買いにいく

いや実は私は酒も煙草もやらないのですが

その私だってその朝食を食べたら

すぐ寝てしまう

昼過ぎまでずうっと


そしてそんな生活が

不潔に思えるような朝もあったのです

爽やかな風に吹かれ

走るひと達に追い抜かれたりなどしながら

あの公園まで帰ってきて

ベンチで休み

そしてあの桜の木 見上げました

ああ

やっぱり綺麗だなあ

桜 綺麗だなあ

ずうっとぼうっと見惚れていました

コンビニ弁当

バイトのひとに温めてもらっていたのに


ひょっとして

貴女は私を誘ってくれていたのですか


桜を見に

あの公園に

違うんだろうなあ

違うんだろうなあ

でも

あの桜のことだけは私も知っていたのです

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桜の木 あんどこいぢ @6a9672

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