愛の言葉

@teasol07

どうってことないだろうと

親しい君が、腕を腰に当てて

ふん、と鼻から息を出している。

あなたのそういうところが嫌いだと

真正面から伝えそうになって、

でも可愛くもあるんだよと、

とりあえず、

喉から言葉が出てくることはなかった。

意地っ張りで根っこが沢山あって、

地面に絡まってる、抜きにくい雑草みたい。

しかしあなたは自分の暗いところが

嫌いで、もがき出ようといつも

闇をかいている。

両手と体を全部使って、落ちないように、

そこから抜け出すように。

私が上から手を伸ばして引っ張ったところで

あなたは喜ばないだろう。

いつも自分で、自分で。と思っている。

私が落ち込んだ時、こちらを

見ようともしない。

雲を晴らそうともしない、それに

気がつきもしない。

私の強すぎる日差しに、嫉妬もしない。

深い闇に落ちた時、救おうともしない。

私が笑えば、嬉しそうな顔をする。

たまに、愛の言葉で驚かせてくる。

いちど、夜通し歩きながら

ずっと話し合っていたことがある。

私は少し怖かったが、

彼はなんてことない。

かかってこいといういつもの風で、

笑えるほど頼もしかった。

そうして私たちは、

あれはどうだ、これはそうだと

道がずっと続いているように、

この世に果てはないように、

ずっと、歩きながら、しゃべっていた。

歩くたびに、話すたびに、

何か暖かい力がたまる感覚があった。

ふと空が紫色に、ピンクを含んだ

美しい景色になる時、

私はこの人を愛しているのだと

全身で感じとれた。

多分、愛していると言ったと思う。

彼は心底、美しいものを見たという

顔をしていた。

空が好きだと告げたことを

思い出していた。

家に着いた後、抱き合いながら

あっという間に、ベッドに

深く沈むように眠った。

夢の中で朝ごはんを食べていた。

トーストに目玉焼きを挟んで、

君の淹れたコーヒーが

珍しくとても美味しかった。

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