自愛

何だかふと、

右後ろの方から声が聞こえてきた。

そして、柔らかくて暖かい手が

右の肩に置かれた。

そこでようやく、私は、

自分自身がとても、とても

リラックスしていることに

やっと気がついた。

優しい人はずっとそばにいて、

私はそのままで

空気を肺の肺胞の端端に

まんべんなく行き渡らせるように、

おおきく肋骨を押し上げた。

ふと、田んぼの青臭い匂いがした。



今日は風が強い日だった。

強い緑と、青い空がありながら、

外にいると、少し寒いと感じるような

強い風が吹いていた。

家族に似て、わがままな愛犬(ゆうじん)が

心配そうに干してある洗濯物を眺めていた。

隣に座ると、

ゆらゆらと尻尾を靡かせて、

優しい顔をしていた。

いつものように顎を撫でて体を撫でると、

お尻の方に毛が集まった。



あまりにも暇になったから、

本を読んだ。

台湾現代詩と、題名にある。

ページを捲る、静かに。

何だかこの人は5月をとても、

寵愛しているようだ。

私が7月を見捨てられない気持ちと

似通っているだろうか。

目を瞑ると、強い風と

湿った空気が寝心地を悪くした。

夏はあっという間に逝ってしまう。



あなたの笑った顔は、

やはり夏に似合わなかった。

いつも厳しい様子が、

冬生まれを表していた。

張り付いて、夏をバカにしているような

そんな姿が好きだった。

しかし、私を馬鹿にすることは

人生一度もなかった。

また会いたいと思う、

冬生まれの君。

夏生まれの私。

愛していると、

言ってほしかった。



眠れば、全て忘れられると思っていた。

夢には、知らない、優しい、親切な

女の人たちが出てきた。

不思議な気持ちで彼らを見ていた。

素敵な人たちだった。

あなたでもないし、

きみたちでもなかった。

私は、何かを必死に話していた。

夢から覚めれば、

私は力を抜いてただそこにいた。

カーテンの光を見ながら、

まぶたはゆっくりと重く落ちていった。

静かな空間の中で、

鳩の声が聞こえた気がした。

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