第3話『踊る時計』

 ヒートアイランド現象立ち昇るビル並木──。

 空蒼く、何処までも何処までも続く青。

 今だ四月の早春の頃だというのに、特有の白いフェンスは、何故か熱がこもっているみたい。

 時代錯誤の疑似都市群。

 本来は、地方に人を集めるためのプロジェクトだったらしいが、資金が尽きたのかはたまたこれ自体が終着点だったか。

 何処か時代を感じさせる都市と──“築木市”は化しているのだった。


 そんな築木市のとある高校にて、一人のが歩いていた。

 何をするでもない。

 ただ、元々少女が住んでいた“築木市”に数年ぶりに帰ってきた事による懐かしみを覚えて、ついつい意味もなく町並木を歩いている。

 そして、転校先である“春風高校”と呼ばれている、案外見た目に反した進学校へと足を運ぶのだった。


 勿論それは、意味ある事だ──。

 下見をいう、薔薇色の高校生活を送るためにも必須事項をも呼べる行為。我ながら真面目だとそう自称する彼女からしてみれば、当然のものと言えよう。

 だが、彼女自身も気付いている。

 此処は地元で、彼女自身の知り合いをもいて。

 当然、

 カチカチと、──彼女の秒針が早くなっているみたいだ。



 /4



『──ねぇねぇ知ってる? 今日、転校生が来たって!』


『あーそれね。確か前は、東京の有名な高校に通っていたらしいけど、親の意向とかなんかでこっちに引っ越していたらしいねー』


『でもやっぱり、トーキョーで行ってみたいよねー』


『そうそう、それね』



 さて、そんな何の変哲もない田舎町の高校に、本日転校生が現れた。

 時期としては何らおかしくはない、初春の頃。

 しかして、その地方都市の高校に東京からの転校生が現れただとかで、噂は高校に留まらず築城市全体にまで広がっているらしいのだ。


「──ふぅん。此処が私立春風高校」


 だが、そんな噂話、当の彼女には関係のない話だった。

 特有白色の廊下を彼女は歩く。

 時代感じさせる教室を眺めながら。

 しかし、彼女はさも当然と云わんばかりに、異国の地である春風高校の廊下を歩くのだった──。


「あの、すみません。此処は関係者以外立ち入り禁止で」


 呼び止められた。

 いや彼女は、その理由を知っている。

 

「──? あぁ、そうでした、そうでした。いえ、本来今日届く筈だった此処の制服がなくてね。それで今日は仕方なく、前の高校で使っていたものを使っているんです。──っと、はいこれが“在学証明書”」

「ありがとうございます。──確かに今日転校してきた、“蔵瀬遥華”さんですね。今日も良い日々を」


 そう言って去って行く用務員らしき人の後ろ姿を、“蔵瀬遥華”は眺めていた。

 ──。

 その中で彼女もまた彼女で、必死に日々を行きているのだろう。

 そんな、意味も意義もない感傷を、何故か遥華は抱いてしまっているのだ。


「(……もしかしたら、私がこの町に戻ってきている事が原因なのかもしれませんね)」


 外を見た。

 何もない、外を見た。

 何かを思う事なんてない。

 けれどもそれは、何処か懐かしさを感じる景色だったのだろう。

 遥華は、そう独白するのだ──。


「──さて。転校手続きや挨拶も終わって待ちに待った放課後。何処へ行こうかしら? 前に行った事のある場所へ行って重いに耽ましょうか。それとも、子供の頃には行けなかった新しい場所へと行こうかしら?」


 そう思いに馳せる遥華であったが、おそらくは早々に終わりを告げるのだろう。

 何せ此処は、山村な築城市。特に思い出に残るような名所もなければ、懐かしき味な食べ物だって存在していない、普通の町。

 それこそ、僅か数日で飽きる事間違いなし。


「……あ。そう言えば、前に行った事のあるがありましたね。でも今はあまり使われていないようですし。──あでも、確か今日梓沙さんからお屋敷で歓迎の会があると聞いていましたわね」


 きしきしと歩いている遥華。

 そんな時、不意に感じた気配。

 何かしら、誰かしらの気配。いや、枯れた懐かしさ特有の匂いが、遥華の鼻の奥を通り過ぎたからに過ぎない──。


「……──ま、気のせいですわね」


 けれど、遥華はそれを、気のせいだと判断をした。

 “直感的な判断は、理論的な判断能力を鈍らせる”。

 その思いで遥華は、そのまま再び歩き始めたのだが、果たしてそれはなのか──。


 それを答えられるような俯瞰的な存在は、まずもっていないし。

 そもそも、態々関わってくる道理もない。

 神はいつも気まぐれで絶対で──。


 ──。



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