4部 5話 人質の救出
「異端、どういうことですか」
「真凛ちゃん。貴方は自分の事を人間だと思っているでしょ」
何、当然の事を聞いているのか。
「もちろん。霊媒師ですが私は普通の人間です」
「じゃあ貴方にとって私は人間かしら」
「それはそうだと思います」
そこまで人間であることを聞いて、何を証明したいのか。
真凛に謎が深まった。
「そうよね。なら、貴方の目の前にいる雪女の力を持つ彼女は人間だと思うかしら」
「そうは思いません」
今まで肯定していた質問に対して、今回は否定する真凛。
「なんでそう思うのかしら、彼女は人間の血も入っているのに」
「例え人間の血が混ざっていたとしても、彼女が妖怪の血を引いている事には変わりようがありません。私にとっては彼女は妖怪という認識です」
その言葉を聞いた時花子は頷いた。
「そう。半妖である彼女は人間にとっては妖怪に分類させてしまうわね。だけど逆に妖怪たちはどう思っているか」
真凛は頭を悩ませた。
「どういうことですか」
「真凛ちゃん。貴方は彼女を人間とは思わないって言ったわよね」
「言いました」
「妖怪たちにとっても、半分が人間の血を引いている雪子ちゃんを、自分たちと同じ妖怪とは思っていないのよ」
「つまりそれって」
「半端者。雪子ちゃんは妖怪にも人間と同じような扱いをされているということよ。彼女は妖怪の血を引いていても人間のようなものだと」
純血の妖怪からしたら、雪子を妖怪と認めることは出来ない。
「それに彼女はさっきまで、拓狼や私と一緒にいたからね」
それが妖怪たちとグルではないという、根拠になる事だ。
「妖怪はよほどの強者じゃない限り、半妖のことを仲間だと思わないのよ。雪子ちゃんは雪女としてはまだ力が弱いからね」
つまり、弱い半妖を仲間にするだけ、無駄だと純血の妖怪は思っている。
だから雪子を仲間にするわけが無い。
「それとね、この現状を変えるためには雪子ちゃんの力が必要不可欠なの」
「どういうことですか」
花子は、この状況の打破ができる方法を知っている。
「今ここは、妖術の結界が貼られていて、普通の人間は結界内で迷って抜け出せなくなる力が周りを囲っているのよ」
それは今の真凛も気がついている。
迷わないように樹木にバッテンの目印とアルファベットと数字を書いているが、どの方角にいくら歩いても最初の位置に戻ってきてしまう。
「この妖術は人間の方向感覚を迷わせるのよ。強い力を持つ霊媒師でない限り抜け出すのが出来ないくらいにね」
「だから私は迷って抜け出せなくなってしまった訳か」
「さて、本題だけど。この結界を壊すのは簡単な事だけど、そうしてしまうと、中にいる妖怪だけでなく、人間も含めて術のダメージを受けてしまうわ」
「それじゃあ拓狼のお母さんは、壊すことが出来るけど、人質が中にいるかもしれないから、この結界を壊せないということですか」
「そうよ。十中八九中に誘拐された少女達がいるわね」
この結界を壊すと中にいる妖怪の他に人質も諸共殺してしまうということだ。
「この結界に出入り出来るのは妖怪と意識を失っている人間だけ。意識がある人間は出る事も入る事も出来ないわ」
「それじゃあ、霊媒師は入れない」
「そう。私の力で結界の効力を弱めることは出来るけど、それで出入りできるのは霊力の持たない人間のみ、霊媒師は意識を失わない限りどうやっても入れないわ」
「それじゃあ意識を失えば入れるのでは」
「人間そう簡単に気絶したり寝ることは出来ないし、意識のない状態では動けないから入ることは困難ね。だから半妖の雪子ちゃんの出番よ」
花子の言葉に雪子は驚いていた。
「私が、どうすれば?」
「半妖である雪子ちゃんなら結界に入る事が出来るわ。そこで雪子ちゃんには中から結界を壊してもらうの。そうすれば私たちは誘拐犯の妖怪たちと戦うことが出来る」
それを聞いて少し身震いをする雪子。
だが、決心をつけ。真剣な表情で、花子の顔を見た。
「分かりました。やります」
「お願いね」
「それで結界を壊すには、どうすればいいのですか」
「結界の中心に何か結界の核になっているものがあると思うからそれを壊せばこの妖気の結界は消えるわ」
「分かりました」
「ちょっと待って」
先に進もうとした時花子に止められた。
「雪子ちゃんに昨日渡した妖気を抑えるお守り、それを渡してくれない。それをしたままだと多分結界の中に入れないから」
「え、あ。はい」
花子に言われた通り、お守りを外して手渡した。
お守りで隠されていた妖気が一気に放出する。
「それとこれを、私の子供に渡してくれる。多分必要になるものだから」
そう言って渡してきたのはお坊さんが手首に着けているような数珠。
「はい。分かりました」
それがなんの効力があるのか分からないけど、雪子は受け取って手首に着けた。
「それでは行きますね」
「お願いね。もし中に入った時、人質の少女がいたら声を妖気を込めて大声で呼びかけてね。結界があったとしても妖気の入った声は多分届くと思うから」
「はい」
そう言って背を向けて歩き始めた雪子。
数歩先を行くと、雪子の姿が2人の目の前から消えた。
「姿が消えた。ということは結界内に入れたという事ですかね」
「そうね。無事に核を破壊出来ればいいけど」
心配そうな表情の花子の隣で真凛は少し複雑な顔をしていた。
「お守りで妖気を抑えていたのなら、彼女は私よりも強いんじゃ」
「そうじゃないわ。あのお守りは妖気を抑えて見えなくさせるだけで、力そのものを抑え込む効力はないわ」
「そうなんですか?」
「多少は力が弱くなるけど、だからといってお守りをしていてもしていなくても真凛ちゃんとの力の差はほとんどないはずよ」
お守りをしていても、力が10パーセントほど弱くなるだけ。
さっきまでの戦闘でほぼ互角であったけど、それでも真凛の方が若干、優先気味であった。
お守りが無くなればその力の差が無くなって完全に互角になるだけ、だからほとんど大差なんてない。
それを聞いた真凛は力の差がないことを知って安堵した。
結界の中に入った雪子は5mほど歩いた時、少女達の声がした。
「どこよ。ここ」
「いくら走り回っても森から出られない」
声のする方向に走ると、12~3歳くらいの女の子が7人いた。
「君たち」
少女たちは雪子の姿を見て怯えていた。
「ひ、ゆ。雪女」
「そんなここまで逃げたのに私たちは殺されるの」
女の子たちは恐怖している。
本当なら走って逃げ出したいが、その体力はもう残っていない。
「待って、怖がらないで。大丈夫」
そう言って雪子は少女たちに、ゆっくりと近づいた。
「私はあなた達を助けに来たのよ」
「ほ、本当?」
戸惑う少女達の視線に合わせて、優しく声をかけた。
「本当よ。辛い中、あなた達だけでよく頑張ったわね」
「私たちはお家に帰れるの?」
少女の言葉に雪子が頷くと、少女たちは涙を流しながら喜んだ。
「良かった。本当に」
「ついに終わるのね。この地獄の日々が」
「ママに、早く会いたい」
少女達の歓声に対して雪子が口を挟んだ。
「悪いけど、喜んでいる時間はないわ。早くこの結界から出ないと」
今もまだ妖怪たちと戦っているものがいる。
ここで時間を取られる訳にはいかない。
雪子は妖気を込めて、結界の外にいる花子に聞こえるように声を出した。
人質になっていた少女達を見つけたから結界の外へ出せるようにして欲しいと。
花子はその言葉に応答して、一時的にだが結界を弱める術を放つ。
その結界の穴から人質になっていた少女達は次々と、脱出するのだった。
半妖の雪華少女 小林 祐一 @kamarisa
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