4部 4話 戦闘の再開

雪子から距離を取った真凛。

彼女は再び霊符を取り出して、符を弓へと形を変えた。


「爆矢」

弓矢を引いて放つ。

放たれた矢の先端は火が付いている。


それを見た雪子は思考をはたらかせた。

(この矢、飛んでくる速度が普通のに比べて遅い。これなら手で掴んで投げ返せる)


そう思ったら右手の剣を指輪に変えて、弓矢を捕まえようとした。

だけどその時、嫌な予感がした。


この矢に触れるのはマズイ、本能的にそう感じたのだ。

雪子は矢を避け、背後にある木に刺さった。


次の瞬間、矢の塚の部分まで燃えて、辺りの空気を軽く振動させた。

「や、やばい」


矢の刺さった木から離れようと左方に思いっきりジャンプをする。


雪子の足が地に離れたコンマ数秒後、矢は人1人を巻き込むほどの大きさの爆発をした。

爆風で体が数メートルほど飛ばされる。


背中から地面に着地をして、起き上がるのと同時に、自分がさっきまでいた場所を見る。

「あ、危なかった」


矢の刺さっていた木は、爆発の衝撃で幹が地面から1m辺りの所が抉れていて、支えが効かなくなり、2人の中間に折り落ちる。


「こんなのくらっていたら、間違いなく死んでいたわね」

空中にいなかったら衝撃で下半身と上半身がちぎれていたかもしれない。


「あの爆発を食らって普通に立てるようなら、人間の身体能力を軽く超えているわね」

それは剣精霊2体の力が大きいだろう。

身体強化されていなければ間違いなく爆風で行動不能になっていた。


「じゃあこれはどうかしら」

そう言って今度は弓を横にして、3つの矢を同時に放つ。

「爆矢、3連」


1本は真正面に、残りの2本は左右どっちにとんでも当たるような位置に飛んできた。

普通なら戸惑って咄嗟に判断することが出来ないだろう。


だけど雪子は、冷静に判断した。

(その矢はとんでくる速度が遅い、爆発は矢が当たった瞬間だ。それなら)

素早く状況に対処して、空中に先端のとがった氷を3つ生成する。


「いけ」

3つの氷は爆矢に目掛けて飛んでいき、3つ同時に当たり空中で爆発が起きる。


爆風は雪子の放った氷が真凛の爆矢に勝り周りに冷気が広がる。

その冷気が真凛に襲いかかり、視界を奪った。

「く、強い冷気で目が開けられない」


その隙をつくように、雪子は真凛に急接近をする。

1m圏内に入った時、左手を大きく振り上げた。


よし、貰った。そう思った雪子だったが、その剣は真凛の持っている弓に弾かれた。


というより弓に剣の持っている手を殴打させられて、痛みで離してしまった。という方が正しいだろう。

故に一瞬の隙が発生し、真凛は雪子の腹部に蹴りを入れた。


「グフゥ」

後方数メートル先で倒れる雪子。

「今だ」

大きな隙を見せた雪子に、真凛が小刀を持って飛びかかる。


やられる訳に行かないと、倒れていた雪子だが手を頭の横に、地面につけて足で勢いをつけながら後転をし、落とした氷蘭を拾う。


真凛の持っていた小刀が地面に突き刺さると、今度は逆に隙を見せることになる。


その隙を逃さないと今度は雪子が真凛に向かって足を降ってきた。

それを見て両手でガードするが、受けきることが出来ずに、真凛の顔にあたり地面に倒れる。



今度は雪子が氷蘭を投げて攻撃を仕掛けたが、それを紙一重で交わす。

「チャンス」

「火炎陣」


追撃しようと近づいてくる雪子、真凛は自分の身を守るように地面から湧き上がる火の縦を360度全体に出した。


雪子は足を止めて後ろに飛び、真凛の火炎陣をギリギリで交わした。


攻防一体の怒涛戦いを繰り広げられていて、両者の実力はほぼ互角。


一瞬の油断が勝敗を決める。そんな状態だ。

見つめ合い、一瞬冷戦になる。


「中々やるわね」

妖怪の血を引いていないのに、霊媒師と言えど人間には違いない。


それなのに、妖怪の血を引いていて、普通の人間とは比べられないほどの身体能力を持つ雪子と互角以上に渡り合っている。


「こうなったらあれを出すしかない」

そう言って、霊符にありったけの霊気を込め始めた真凛。


それを見た雪子は対抗するように妖気を、込め始める。

「これは昼間の決着をつけるという事ね」


一瞬の硬直から一気に術が放たれた。

「火炎放射」

「行っけー」

炎と氷の同時放射。2つの力が中央で激しくぶつかり合う。


接触した氷と炎は蒸発し上空へ飛んでいく。

威力は互角、このぶつかり合いは力を抜いた方が負ける。


「ウォォオオォ、負けてたまるか」

「引けない。絶対に引けない」

2人の気がどんどん減っていく。


ほんのわずかだが真凛の霊術が雪子の妖気を押し始めた。

だが、決定打になるほどに押せてない。雪子も負けないと必死に粘っているのだから。


そんな中で、その争いを止める人間が拓狼の他にもう1人だけいた。

「雷撃」

雷が2人の術の中心に目掛けて飛んできた。


その攻撃は2人の技を消滅させ、争いが一気に止まった。

「地電磁波(じでんじは)」

地面から電気が流れてきて、2人の体に直撃する。


それを受けた2人が体全身に電気が駆け巡り、痺れて動けなくなった。

「う、な。何これ」

「し、痺れて、何も出来ない」


「争いはもうやめなさい」

2人に聞き覚えのある女性の声。

視線を向けるとそこには花子が立っていた。


「は、花子さん」

「拓狼のお母さん」

驚いている少女達に声を上げて語り始めた。



「真凛ちゃんと雪子ちゃん。2人がこれ以上争うのは、無駄な事よ」

花子の言葉に真凛は否定する。


「何を言っているのですか、少女誘拐事件に雪女が絡んでいるんですよ。彼女は雪女なのですから少女誘拐事件の犯人たちに違いありません」


雪女なんて雪子以外にいるが、そう簡単に見つかる妖怪ではない。

珍しい妖怪であり、事件が発生してから現れたとなると容疑者として疑われるのも仕方の無いことだ。


だけど花子は真凛の言葉に対して首を横に振った。

「残念だけど彼女が犯人ではないわ」

「なぜそう言い切れるのですか」

雪子が犯人じゃないと断言する花子に、真凛は真剣に、しかも少しキレ気味で聞き返した。


「真凛ちゃん。現場にあった雪女の氷、見てないでしょ」

その質問に対して、真凛は首を縦に降って返答した。


「はい。彼女が初めて見た雪女です」

返答した真凛の言葉に対して、花子はやっぱりと言葉を放った。


「現場にあった氷は普通の雪女が出す氷とは違っていたのよ」

「どういうことですか」


真凛の表情がキョトンとしている。

「雪子ちゃんの生成する氷は普通の透明、だけどね誘拐事件の犯人の雪女が生成していたのは紫色の氷だったのよね。妖気が異常なほどに高いのよ」


「紫色の氷ですか」

紫色の氷と言われてピンと来ない真凛。

別に物理的に作れないという訳では無い。


紫色の飲み物、グレープジュースとかを凍らせたりすれば簡単に作ることが可能だ。

色つきの氷は色つきの液体を凍らせれば簡単に生成できる。


だけど変色した氷を作ること自体、滅多にしない事だ。

ただ暑さを凌ぐため、熱のある液体を覚ますために使うなら水を凍らせたもので充分に事足りるからだ。


だから紫色の氷と言われた時、真凛はしっくりと来なかった。

「少女誘拐の雪女は間違いなく特殊個体だわ」

「特殊個体?」


「そう。普通の雪女とは比べものにならないほど強いわ。強さのランクが2段階上がるほどに」

「ですが、彼女が仲間であり、足止めでそこにいる彼女に頼った可能性も」


「それは無いわよ」

「何故ですか」

「それはね。彼女が異端だからよ」

その言葉を聞いた時、真凛はキョトンと言う表情をした。

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