後 編
「気持ちいいか?」
頭を撫でてくれないと一日が始まらないよ。
「出掛けないのか?」
うん、あなたの側を離れないよ。
少しでも一緒に居たいからね。
「最近大人しいな」
あなたがたくさん構ってくれるから悪さする必要がないんだよ。
物を壊した事も、お仕事の邪魔した事も、寝ているのを起こした事も、ちゃんと全部反省してるんだよ。
ちょっと恥ずかしいけど、代わりにお腹を撫でても許してあげる。
だけどしっぽはダメだからね。
「危ないな」
電線コードに躓くなんて恥ずかしいよね……。
昔、噛み付いたバチが当たったのかな。
わざわざ片付けてくれるの? ありがとね。
「大丈夫か?」
最近いつも以上に私の事を気にかけてくれるね。
そんな優しいあなたが好きだよ。
「寒くないか?」
心はいつもぽかぽかだよ。
「痛いところはないか?」
ちょっと胸の辺りが痛いかな。
いい加減、私の気持ちに気づいてよ。
何年一緒に居ると思ってるの。
「どっちがいい?」
どっちもいらないから側に居てほしいかな。
ほらっ、お腹なら撫でていいって言ってるでしょ!
「食欲が無いのか?」
せっかく私のためにあなたが買ってきてくれたプレゼントなのに、いつも食べきれなくてごめんね。
でも気持ちだけは残さず全部貰ってるからね。
「痩せたな」
前より綺麗になって見惚れちゃった?
もし体重が増えても、大人のレディに対して『太ったか?』なんて聞いたらダメだからね。
あなたの何気ない一言で、本気で傷付いてしまう子が居るということを知ってほしいな。
「歩かなくていいぞ」
せっかく教えてくれた芸も、以前の様にするのはちょっと難しいの。
あなたが喜ぶから覚えたのに、あなたが笑うから披露したのに、もう期待に応えられなくてごめんね。
それとあなたの方から寄ってきてくれるのって実はすごく嬉しいんだよ。
「今日も一緒に寝るか」
運んでくれてありがとね。
この席は、この時間だけは、誰にも譲れない私だけの特等席。
最近、あなたの顔が上手く見えないけど、あなたの声も匂いも温もりもまだ感じられるよ。
もし私が居なくなったら、きっとあなたにはまた新しく特別な子が出来て、この席はその子のものになるんだよね。
あなたが寂しくならないのは嬉しいけど、私はやっぱりちょっと寂しいかな……。
「…………」
何か言ってくれないと今あなたがどんな顔しているのか、どんな気持ちなのか、想像できないよ。
無愛想なあなたの表情から感情を読み取れるのなんて世界中探しても私くらいだよ。
「大好きだ」
……初めて私の『好き』に『好き』って返してくれたね。
私の『好き』とあなたの『好き』には大きな違いがあるのは分かっているけど、やっと私の想いに応えてくれたみたいで嬉しいな。
あなたが鈍感じゃなかったら、私の想いに気づいてくれたのかな?
たとえ気づいたとしても、この恋は絶対に叶わないからどうしようもないんだけどね。
「今までありがとう」
私の方こそ色々と良くしてくれてありがとね。
たくさんの感情を与えてくれてありがとね。
最後まで私の側を離れないでくれてありがとね。
私は世界一幸せだったよ。
もし生まれ変われるなら、今度は私の言葉が――想いがあなたに伝えられるようになりたいな。
そして今度も私があなたの側に居たい。
今度は違う形であなたの家族として、今度は違う形であなたに寄り添ってあげたい。
いつも優しく抱きしめてくれるあなたが落ち込んでる時に、今度は私の方から包んであげるの。
あなたがそうしてくれたように、きっと寂しくなくなるだろうからね。
そしたら、わがままなんて言わない良い子になるのにな。
まだ伝えきれていないのに……。
たくさん恩返ししたいのに……。
あなたを一人にしちゃってごめんね。
いつもわがままばっかり言ってごめんね。
たくさん愛してくれてありがとね。
いつまでもあなただけが『好き』。
今日も私は『好き』を伝える 咲鞠 @s_mari
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