第2話_東京ユグドラシル1

ここまで周囲を観察してみたが、やはりこの場所を知らなかった。来た覚えはない。

何か覚えていることは無いかと必死で記憶を探るが、自分の名前すら思い出せない。

「いったい何が起きたんだ?」思わず口にする。

しかし質問に答えるものはいなかった。

人間は困惑極まると思考力が低下する。彼もまた同様で、へたりとその場に座り込んでしまった。待っていれば誰か来るのではないだろうか?というわずかな希望もあったが、冷静に考えてこんな廃墟のような場所に来る人はそうそういない。

数分たったが人どころかネズミ一匹通らなかった。まるでこの世界に誰もいないかのような薄暗い静寂。ところどころに点灯している明かりがいまだに電力の供給を受けていることを示しているが、メンテナンスされているかは不明だ。

とりあえず薄暗い地下鉄の駅から出ることにした。ここで待っていても誰も来ないし時間の無駄だろう。

開札の方に向かうと、驚いたことに木製のゲートが設置されていた。今時自動改札機がないなんて。こんなの戦前の写真とかでしか見たことがない。

木製のゲート脇には駅員が立つスペースもあるが今は無人だ。しかしよく考えると彼は切符もICカードも持っていないので、ここは素通りさせてもらおう。

ゲートを抜けると石の古い階段があり、その先が地上に通じる扉になっているようだ。

扉は金属製で内側から閂で閉じられていた。

閂を外して、扉を押し開けると、視界が真っ白になった。あたたかな太陽光、地上に出たようだ。

目がまぶしさに慣れてくると、そこには想像を裏切る光景が広がっていた。

まず目に入ったのはボロボロになった建物だ。昔はかなりしっかりした大きな建物だったであろう面影はあるが、外壁は崩れていたり、蔦に侵食されていたりしている。窓ガラスは全て割れてしまっているのがわかった。どう見ても廃墟だ。

廃墟になってしまったのはどうやらこの一軒だけではないようだ。どこまでも人気がなく道路は車も走っていない。何より音がしないのだ。

風の音とかすかに鳥と虫の声がするだけ。そこに文明があったことすら忘れ去られたかのような有様だった。

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